野球協約第173条は改正が必要
〜選手が望む指導と試合出場は権利として認めるべき〜

犬山 翔太
 
 2014年1月7日、ナゴヤ球場に来ていた落合博満GMが自主トレ中の松井佑介に打撃指導をしたニュースが物議を醸している。
 野球協約第173条に違反するのではないか、という指摘があるためである。
 確かに野球協約第173条には球団が野球指導を行うことができない旨の一文がある。

  『野球協約第173条』
(ポスト・シーズン)
球団又は選手は、毎年12月1日から翌年1月31日までの期間においては、いかなる野球試合又は合同練習あるいは野球指導を行うことはできない。ただし、コミッショナーが特に許可した場合はこの限りでない。なお、選手が球団の命令に基づかず自由意志によって基礎練習を行うことを妨げない。

 この第173条の文面だけで素直に解釈すると、落合GMは、中日球団の職員にあたるため、野球指導を行えないと読み取れる。
 しかし、落合GMがこの協約を知らずに指導した訳はなく、11月の契約更改と同様、現状のプロ野球界における問題に一石を投じる意味合いが強いことは明白である。
 まずは、野球協約第173条が一体何のために存在しているかを考えなければならない。


 野球協約第173条は、選手が無償で働かされることを防止するのを目的としている。プロ野球選手にとって、12月と1月は、長期休暇である。
 それは、野球協約第87条に参加報酬の対象となる期間が明記してあるからだ。

  『野球協約第87条』
(参稼期間と参稼報酬)
1 球団は選手に対し、稼働期間中の参稼報酬を支払う。統一契約書に表示される参稼報酬の対象となる期間は、毎年2月1日から11月30日までの10か月間とする。



 選手たちは、毎年2月1日から11月30日まで球団のスケジュールに沿って働く代わりに12月1日から1月31日までは球団に拘束されない。

 それならば、1月に各選手が集まって行っている合同自主トレは、協約にある「合同練習」にあたるのではないかという疑問がある。しかし、これは、選手会とNPBの間で、球団が参加強制や指導をしないということで、話がついている。つまり、合同自主トレは、合同練習ではないのである。

 しかし、選手は、休暇と自由を守る権利を得た反面、指導を受ける権利を失ってしまっている。
 あくまで自主トレであるため、誰からも指導を受けることができない。もし、壁にぶち当たったとしても、助言を得られず、上達する機会を逃してしまうことになりかねない。
 落合GMが提起した意図は、ここにある。

 かつて、中日では2007年に久本祐一投手がドミニカのウインターリーグに11月中旬から参加をしたが、久本は、12月を超えても自主参加の意思を示した。そして、久本は、12月中旬までのウインターリーグでのプレーを希望したが、選手会が下した判断は、野球協約違反というものだった。そのため、久本は、強制帰国を余儀なくされた。
 このときの中日監督は、落合である。選手が上達しようと外国で試合に出場したくても、野球協約のせいで出場できない。野球協約第173条に潜む問題は、当時から把握できていたのだ。

 野球協約第173条は、あまりにも内容があいまいになっているがゆえに、改正が必要である。
 少なくとも「野球試合又は合同練習あるいは野球指導を行うことはできない。」の前に「球団主催で」という言葉を付け加えなければならない。
 そして、自発的な試合への参加、自ら希望して指導を受けることについては、選手の権利として、認めるべきである。





(2014年1月作成)

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