予告先発制度で何が変わるのか
〜2012年シーズンからセリーグも導入〜


犬山 翔太
 
 1.唐突な予告先発制度導入

 2012年3月8日、セリーグは、6球団の全会一致によって公式戦144試合での予告先発制度を決めた。この制度は、巨人からの提案だという。状況からみると、阪神にいた岡田監督がパリーグに移り、中日の落合監督が退任して、予告先発制度に反対する球団がなくなったことが最大の理由だろう。
 また、東日本大震災により、観客動員が落ち込んでしまったのも、もう1つの理由と報道されている。

 予告先発制度は、既にパリーグが1994年から導入していて目新しいものではない。それによってパリーグに人気が出たかと言われると、パリーグは、並行して地域密着型のチーム作りに成功した球団が多く、さらにイチロー・中村紀・ローズ・カブレラ・松坂・新庄・ダルビッシュ・中村剛・田中・斎藤といったスター選手を続々と輩出しており、彼らの人気に拠るところも大きい。

 つまり、セリーグが予告先発制度を導入することによって、どこまで観客動員が伸びるかはやってみなければ分からないのである。
 現状では、想定できるメリットとデメリットを挙げて、予告先発制度で何が変わるのかを考えるほかない。

 2.ファンにとっての二極化

 予告先発制度のメリットとして、最も論じられているのがファン層の拡大である。
 以前から特定球団の試合を球場で観戦しているファンにとっては、チケット購入は、チケット発売日かその翌日に購入することがほとんどであるため、予告先発制度が導入になったからといって、何ら影響はない。

 予告先発制度が導入となって、意識が変わるのは、これまであまり積極的には球場で観戦せず、テレビ観戦やニュース・新聞で結果を知るのが主だったプロ野球ファンである。
 日帰りで野球観戦ができる地域に住んでいれば、休日の予定が決まってなかったとき、当日になってこういう展開となる。
「おっ、今日は、マー君が先発か。それなら、家族みんなで球場へ観戦でも行ってみるか」
 そういうファンが増えることによって、ファン層が拡大していく。実際に球場で観戦すると、選手の一挙手一投足に引き込まれ、試合展開で手に汗握り、魅了される。
 セリーグの6球団が期待するのは、まずそこである。

 さらに、前日に発表することで、次の日の予定をまだ立てていないファン層に、試合を強く意識づける効果をもたらす。さらに、翌日の先発投手に対する特集やインタビューもとることができ、マスコミを利用した宣伝効果は大きい。

 しかし、その一方でデメリットがあることも否めない。たとえば、翌日の先発投手が谷間の無名若手投手であった場合である。それまでなら、ローテーション間隔を1日詰めてエースが先発するのか、谷間の投手が先発するのか分からなかった。しかし、谷間の投手が先発と分かってしまった場合、観戦に行こうと思っていたファンが観戦を取りやめてしまうことも想定できる。
 つまり、人気のある先発投手の試合にはさらに観客が増え、人気のない先発投手の試合にはさらに観客が減る、という二極化が起きるのである。


 3.球団にとっての二面性

 一方、球団にとっても、メリットとデメリットがある。
 メリットとしては、他球団の先発を読めない時に、スコアラーを使って状況を調査させ、先発を予想する、といった必要がなくなる。
 また、自球団の先発を他球団に迷わせるため、複数人の投手を同じように調整させてかく乱するという必要もなくなる。
 先発投手が分かることで、右投手に対しては左打者中心の打線、左投手に対しては右打者中心の打線、と組み替えることも容易になる。
 打撃中心の球団で、数多くの強打者を抱えていると、かなりのメリットが見込まれる。

 しかし、デメリットとしては、先発投手陣の豊富な球団にとっては、他球団をかく乱させることができなくなり、不利になってしまう。
 中日は、2004年にそれまで3年間1軍登板がなかった川崎憲次郎を開幕に先発させ、それが球団の起爆剤となって優勝を果たした。また、2009年には大方の予想を覆して中継ぎ投手だった浅尾拓也を開幕投手に起用するサプライズで勝利をもぎとった。
 そういった重要局面での戦略的効果が見込めなくなる分、監督の采配が単調になってしまう弊害も見逃せない。
 つまり、打撃中心で強打者を数多く揃える球団にとっては有利になり、投手中心で好投手を数多く揃える球団には不利となる。
 また、監督をはじめとする球団首脳陣の負担が軽減される反面、戦略を練り上げて選手を効果的に起用する采配を行ってきた球団首脳陣にとっては不利となる。


 4.効果を見るなら2013年以降

 こうして見ると、予告先発制度には、ファンにとってもメリットとデメリットがあり、球団にとってもメリットとデメリットがあり、それが複合的にもらたす効果は、ファン層拡大になるかファン層縮小になるか安易に断言はできない。

 セリーグにとって、2012年は、予告先発制度の導入効果で、注目度が上がるため、ファンに対してある程度の効果をもたらし、観客動員を押し上げるだろう。
 しかし、そういう一時的な盛り上がりが過ぎた2013年以降、どのような観客動員の推移をたどるかこそ注目していく必要がある。
 単なる予告先発制度の導入だけでは、持続的なファン層の拡大は望めない。そのためには、2012年に球場へ詰めかけた観客に対して、いかに熱狂的な感動を生む試合を見せられるか、観客を呼べるスター選手を作り上げられるか、そして、観客を楽しませるイベントなどを組み込むことができるかにかかっている。




(2012年3月作成)

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