1.サッカーに押され続ける野球の国際大会
2011年、スポーツ界は、サッカーの女子W杯がすべての話題をさらっていったと言っても過言ではない。日本代表がアメリカを決勝戦で破って世界一になり、国民栄誉賞を受賞した。それに続いて日本代表がオリンピックの本選出場を決め、男子も、W杯予選に日本代表が登場して盛り上がりを見せている。
そんな中、野球は、国際大会の話題と言えば、WBCに参加するかどうかである。日本は、WBCへの不参加をちらつかせて盛り上がる以前のところでつまづいているのだ。
その原因は、プロ野球選手会がスポンサー権と代表グッズのライセンシング権(商品化権)を強硬に求めているためである。
また、10月1日から始まった第39回IBAFワールドカップは、NPBから誰も参加していないせいか、ほとんど注目を集めていない。
サッカーと野球の格差は、おそらく各大会が世界において持つ注目度と歴史と参加国数によるものである。
サッカーW杯予選の参加国数は、2010年W杯の男子が199を数え、2011年の女子も122である。女子日本代表は、122カ国の頂点に立ったわけであり、それが国民栄誉賞につながった。
この受賞については、民主党の露骨な人気取り政策との批判もあるが、WBCの日本代表がこれまで国民栄誉賞の話題にも上らなかったのは、それなりの理由がある。
WBCは、まだ2006年に始まって2回しか開催されておらず、2回ともに参加国は、すべて招待制でわずか16カ国である。今後、WBCがサッカーW杯と同等の権威を持つためには、50カ国、100カ国と参加国を増やしていき、予選を開催して長期間にわたって盛り上げる必要が出てくる。
そんな中で、日本は、WBC不参加もありうるという方針を貫く必要があるのだろうか。
2.金銭問題で不参加を決めるべきではない
日本がWBC不参加をちらつかせたのは、今回が初めてではない。2006年の第1回WBCのときも、日本は、当初から不参加を前提にしていた。
それは、WBC創設の方針が純粋な野球の国際化というよりは、MLB主催のマーケット拡大戦略であったため、NPBが利益配分に不満を持ったのである。そして、プロ野球選手会もまた、3月という開催時期に不満を持ち、不参加を決議する。
しかし、日本は、結局、MLBの圧力に屈して参加を決断する。不参加時に被る経済的補償と国際的孤立という危機をつきつけられては、参加するより仕方なかったのである。
結果的に日本代表は、第1回WBCで世界一になり、第2回WBCでも世界一になるという快挙を達成して、不参加では得られなかった大きな恩恵も受けた。
それにもかかわらず、日本が2013年の第3回WBC開催を前にして不参加を盾に、MLBに強気の金銭交渉を行うことには違和感を感じざるを得ない。
しかも、プロ野球選手会が求めている金銭は、ホームページの言葉を借りると「次世代のプロ野球選手の育成や日本野球のさらなる普及、発展」のため、とあまりに抽象的であり、単に日本の内情だけを考えたものである。
それが日本国民には、あまりにもプロ野球選手会の独り相撲に見えて、大きな関心すら呼べずにいるのである。
本来であれば、先日引退を発表した石井弘寿投手の事例にあるように、WBC参加が原因となって大きな故障をしてしまう選手の補償金に充てたり、アジアの不参加国に野球を普及させて参加国増加に貢献するという方針が望ましい。
確かに、WBCでは、MLBおよびMLB選手会が合わせて66%の収益を手にしている事実と日本が13%しか得ていない事実はある。66%の利益がどのような配分で、次なるWBCの開催費や世界的な野球普及費となっているかが不透明でもある。
だが、同様にWBCでNPBやNPB選手会が大幅な収益増を勝ち取ったところで、その収益の使用先は不透明なまま残ることになる。
収益の使途明確化こそがWBCの課題である。
そういったところを日本国民は、冷めた目で見ているため、球界再編問題のときのような世論の支持を得られずにいるのだ。
3.今はジャパンマネー回収よりも野球の世界的発展を
日本は、9月30日であったWBC参加表明期限を先延ばしするように申し入れた。日本の政治が得意とする決断を先送りする手法である。
契約社会のアメリカでは、MLBが参加表明期限9月30日を先延ばししてくれないのではないかと私は、予想していたのだが、その予想は、外れてしまった。
つまり、MLBも、日本が参加してくれなければ、WBCの運営が相当苦しくなるということである。そういう持ちつ持たれつの関係にあるがゆえに、あくまで参加を前提としてWBCの収益を有効利用する方策を議論すべきである。
あくまでWBCは、単に莫大な利益を得るために、開催した大会ではなく、理念としてはサッカーW杯の野球版を目指している。たとえ、MLBの腹の内がそこまで純粋でなかったとしても、できるだけ多くの国々をWBCに巻き込むことが野球界全体の発展につながる。
サッカーW杯がその国のスポンサー料をすべて還元しているため、WBCもそうすべきだ、というプロ野球選手会の主張は、間違ってはいないが、約200の国が参加する大規模な大会と、16カ国のみが参加する発展途上の大会では、まだ比較の対象にはならない。
今、日本のプロ野球界が望むべきなのは、スポンサーやグッズ収益によるジャパンマネー回収ではないのだ。
WBCの本来あるべき姿は、五輪やサッカーW杯のように、国際的に中立な組織が運営して、世界各国に平等な振分を行い、野球途上国へも積極的な支援を行うことである。しかし、国際野球連盟(IBMF)は、それだけのリーダーシップはなく、世界最高の野球人気と収益を誇るMLBが主導でなければ、サッカーW杯のような大会にしていける見込みがない。
事実、日本が中心となって2005年から始めたクラブW杯予選版とも言えるアジアシリーズは、年々尻すぼみとなってきており、今後は、開催さえ危ぶまれる状況に追い込まれかねないほどである。
WBCは、野球というスポーツが復活するために、また、野球やソフトボールが五輪種目として復活するために、最も重要な大会である。WBCがなくなれば、五輪野球の正式種目復活は、夢の夢となってしまう。現在のところ、WBCの拡大こそ、世界の人々に野球の面白さを見せつけ、興味を抱かせて野球人口を増やす最大の手段である。
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