2009年11月11日にセリーグ理事会、2009にパリーグ理事会が2010年からビデオ判定の正式導入を決めた。とはいえ、いずれも本拠地球場の本塁打判定に限るという条件付きである。つまり、地方球場で開催となる試合では、本塁打判定は相変わらず審判の目によるため、誤審はそのまま見逃される。

 また、ビデオ判定も、映像の精度やビデオカメラの設置位置によっては、残像の関係で本塁打かファールかを見分けるのが困難な場合もあるため、今後はそのあたりまで精査していく必要が出てくるだろう。
 他にも、ポールの上を通過してしまった打球の判定は、ビデオでも判定が困難であるため、今後、天井までポールを伸ばしたナゴヤドームのような球場の改善も急務である。

                 2010/02/11 犬山 翔太


日本もビデオ判定の導入が必要 
〜大リーグの本塁打ビデオ判定導入〜


犬山 翔太
 
 1.映像技術の進歩とビデオ判定の未導入

 2008年9月23日、西武は、パリーグ優勝までマジック2で楽天戦を迎えていた。私が住む地域では、パリーグの試合が地上波のテレビ放送で見られることはまずないが、インターネットの「Yahoo!動画 パリーグ熱球ライブ」ではどの地域に住んでいても自由に中継が見られる。
 私は、時代の恩恵を感じながら、インターネット中継を見ていた。
 試合は、楽天が序盤からリードする展開で、8回表に2点を取った楽天は、5−2とリードする。しかし、西武も、8回裏に5点を奪って7−5と逆転し、9回表を抑えれば、優勝というところまで持って行った。既に2位のオリックスは、負けており、その時点でマジック1となっていたからである。

 ところが、9回表、ドラマが起きる。守護神のグラマンがエラーや四球を挟んで最後は満塁本塁打を浴び、5点を奪われて7−10とリードされてしまうのだ。意気消沈した西武は、その裏に再逆転する気力はなく、試合は、あっさり終了し、その日の西武の優勝は消滅した。年に数回あるかどうかという試合展開がこういう優勝がかかった日に生中継で見られるというのは貴重である。
 昔ならニュースくらいでしか見ることができなかっただろうが、現在ではインターネットで世界中のどこからでも見られる。
 
 しかし、こうした全世界から球場の様子が見られる映像技術の進化がありながら、日本のプロ野球はまだビデオ判定を導入していない。
 2008年8月にようやく大リーグがビデオ判定を決めたのに、日本のプロ野球は、まだ頑なにビデオ判定を拒み続けている。
 世界の中でも優れた映像技術を持つ日本がここまでビデオ判定導入に難色を示す正当な理由は果たして存在するのか。日本のプロ野球で頻繁に起こる誤審問題を見ていると、一刻も早いビデオ判定導入が必要なのではないか。
 ビデオ判定を導入しない欠点よりも、ビデオ判定を導入する利点の方が遥かに多いはずだからである。


 2.ついに大リーグがビデオ判定導入
 
 2008年8月26日、大リーグは、8月28日の試合から本塁打の判定に限ってビデオ判定を導入することを決める。大リーグのセリグ・コミッショナーは、判定の難しい球場が増えたという原因や、微妙な判定によって試合時間が長くなることを防ぐという意図などを表明した。
 これまで審判の権威が絶大で、審判の判定に激しく抗議することもタブーとされてきた大リーグでの決定は、私にとって大きな衝撃だった。
 
 審判は、人間である以上、必ず過ちを犯す。たまたま重要局面でまばたきをしてしまうこともあるだろうし、立ち位置によっては決定的場面を見逃してしまうということもある。
 その部分を映像技術がカバーするということは、時代の流れから見ても必然である。

 その年の9月3日のレイズ×ヤンキース戦では、初めてビデオ判定が適用され、9月19日のレイズ×ツインズ戦では、ビデオ判定によって初めて判定が覆っている。このとき、ディミュロ審判は、打球ががスタンドのファンが触ってスタンドに入ったとして二塁打と判定したものの、ビデオ判定の結果、まぎれもない本塁打と判明したのである。
 ディミュロ審判は、かつて来日してプロ野球の審判を務め、大豊泰昭がストライク判定に不服として暴行を加えたため、身の危険を感じて帰国した伝説の審判である。
 審判の権威というものを日本に見せつけて帰国したディミュロがビデオ技術によって権威を奪われたというのは皮肉だが、それだけ審判の判定には、不安定な要素が多かったということでもある。

 野球の世界で大リーグが初めてビデオ判定を取り入れたとはいえ、アメリカでは四大スポーツのうち、野球以外は既にビデオ判定を取り入れていた。
 プロフットボールのNFLでは1986年に、アイスホッケーリーグNHLでは1991年に、プロバスケットボールNBAでは2002年に導入していたのである。
 また、プロテニス界でも2006年から大会ごとの導入ではあるが、ビデオ判定を取り入れている。意外なところでは、日本の大相撲が1969年から誤審を契機として導入し、以来、微妙な判定ではビデオ判定が勝負の行方を決めている。

 こういったプロスポーツ界の動向は、ビデオ判定導入の流れがあるにもかかわらず、野球は、その流れに乗り切れないでいる。
 もう1つメジャーなプロスポーツでビデオ判定に乗り切れていないのがサッカーなのだが、サッカーがビデオ判定導入をしないのは、試合の流れを止めてしまうことに対する懸念が最大の要因だという。
 確かに審判への抗議が少ない大リーグを例として考えれば、サッカーのように試合の流れを止めてしまう可能性は十分にあるだろう。
 しかし、日本では逆にビデオ判定を導入していないことによって、試合の流れを止めてしまうという場合が数多く存在するのである。


 3.大杉勝男の疑惑の本塁打

 審判の判定に長時間の抗議として、最も有名なのが大杉勝男の疑惑の本塁打である。
 1978年の日本シリーズは、阪急がヤクルトに2勝1敗としたあと、ヤクルトが2連勝して3勝2敗で追う手をかけ、第6戦は阪急が勝って3勝3敗にするという球史に残る激闘となった。
 後楽園球場で行われた第7戦も、5回表まで0−0の緊迫した試合となる。ヤクルトは、5回裏の攻撃でヒルトンが2塁にタイムリー内野安打を放ち、1点を先制する。

 そして、6回裏に事件は起きる。1死ランナー無しで打席に立った大杉は、その日、併殺打と三振で全く当たっていない。
 相手投手は、日本シリーズに強く、第3戦では完封勝利を挙げた足立光宏である。足立は、カウント1−1から内角高めへのシュートを投げる。それを大杉は、豪快に引っ張った。
 打球は、高々と舞い上がり、レフトのポールの頂点の少し下あたりを通過して行った。当時のビデオを確認してみると、打球をアップで映していないため、ポールの右と左のどちらを通過していったかを判別することが困難である。

 レフトの線審をしていた富沢宏哉は、手を回して本塁打の判定をする。大杉は、万歳をし、小躍りしながらホームインする。
 しかし、本塁打の判定に納得していない上田利治監督は、レフトのポールの真下まで行き、激しい抗議を始める。
 そして、判定が覆らないと見るや、選手全員をベンチに引き揚げさせたのである。そして、その後も、ベンチ前で審判団に対して猛烈な抗議を続ける。上田の怒りは、簡単には収まらず、阪急の渓間球団代表、金子コミッショナーが上田の説得にあたってようやく試合が再開した。結局、抗議時間は、1時間19分。
 ヤクルトの投手は、エースで好調な松岡弘であり、1−0から2−0になれば、敗色が濃厚となる。この判定がファールであれば、まだ1点なら分からない。上田は、この一打の判定が日本シリーズの勝敗を決定づけると見ていたのである。

 試合は、上田の予想通り、ヤクルトが勢いづき、試合再開直後にマニエルがレフトスタンドへソロ本塁打を放って3−0、8回裏には駄目押しとなる大杉のこの日2本目のソロ本塁打が出て4−0となる。
 逆に阪急は、7回からの3イニングを2安打0点に抑え込まれて、ヤクルトが球団初の日本一に輝くのである。それとともに、阪急の日本シリーズ連覇は、3で止まることになる。

 上田は、この抗議騒動と日本シリーズ敗北の責任をとって翌日、阪急の監督を辞任する。
 当時は、映像の質も撮影技術も現在ほど、進歩していなかったため、テレビの映像でも、本塁打かファールか判別できない。そのため、たとえビデオ判定があったとしても、正確に判定できたかどうかは疑問である。

 しかし、現在の技術をもってすれば、あの打球が本塁打かファールであったかは、正確に判別できるはずである。
 つまり、ビデオ判定をこのまま導入しない場合は、今後も1時間19分の抗議は起こりえるが、ビデオ判定を導入すれば、一目瞭然の証拠として誰の目にも明らかな正しい判定を下し、抗議をすぐやめさせることができるのである。1時間19分の抗議やそれが原因となる監督辞任劇などは、起こり得ないのだ。


 4.まずは短期戦でビデオ判定導入を

 審判の判定が原因となって、試合進行が著しく遅れたり、試合そのものの流れが変わってしまった例は、枚挙に暇がない。
 フェアかファールかの判定だけではなく、ワンバウンド捕球かダイレクト捕球かの判定、内野ゴロのアウトかセーフかの判定、ストライクかボールかの判定、スイングかスイングしてないかの判定、ベースを踏んだか踏んでないかの判定、タッチプレーのタッチしたかしてないかの判定など。他にも2006年WBCでは、タッチアップするのが早いかどうかで大誤審があり、物議を醸した。

 このように判定を審判の目だけに頼ることで、様々な抗議が発生し続けている。大杉の疑惑の本塁打が出た当時は、まだ映像に頼るには時期尚早で、審判の目に頼るほかなかったが、現在は、状況が大きく変わっている。

 大抵の判定は、テレビ局が撮影している映像によって、正誤が明らかになる。審判の判定に疑問が生じた場合は、スローVTRによって確認すれば、一目瞭然なのである。
 明らかな誤審であることがテレビ観戦している視聴者には明らかになってしまうにもかかわらず、審判団の協議の結果、誤審を訂正せず、そのまま試合が続行してしまうと、私は、憤慨と呆れが入り混じった感情を覚えてしまう。同じように、多くのファンが試合の熱狂に水を差されてしまっているはずである。

 2008年、西武×巨人の日本シリーズでも、誤審は続いた。第3戦の7回表に鈴木尚広が内野安打を放ったが、1塁に駆け込んだタイミングは、VTRを見れば明らかなアウトだった。
 さらに、9回裏に佐藤友亮が放ったキャッチャーゴロは、VTRで見ると、明らかにバットに当たった後、地面にワンバウンドしてキャッチャーミットに当たり、その後で前に転がったファールである。
 巨人が西武に6−4で辛勝するという展開だっただけに、これらの判定には西武側から不満の声が上がった。結果的に西武が4勝3敗で日本一となったからよかったものの、巨人が日本一になっていたら、こうした誤審がもっと大きな問題となっていただろう。

 現状、日本のプロ野球は、大リーグが導入した本塁打のビデオ判定を取り入れる予定はない、と発表している。公式戦に使用される数多くの地方球場にまでビデオ設備が整えられないことが最大の要因なのだという。
 しかし、そうであるならば、球団の本拠地に使用球場が限られるクライマックスシリーズ、日本シリーズではビデオ判定が可能なはずである。アジアシリーズも、ビデオ判定できる球場でのみ開催することにしておけば導入は可能である。
 完璧に導入することができないから見送っていれば、いつまでたっても現在の誤審問題に改善はない。一歩ずつでも、ビデオ判定を取り入れ始めていかなければ、日本野球だけ時代の流れに乗り遅れてしまうことになりかねない。

 無論、ビデオ判定をストライクかボールかの判定にまで一気に導入してしまえば、逆にビデオ判定の回数が激増して試合進行の妨げになりかねない。
 導入の方法としては、まず本塁打のビデオ判定を導入し、その後、順次、フェアとファールの判定、次にワンバウンド捕球かダイレクト捕球かの判定と範囲を広げて行くのが最善である。

 日本は、2006年WBCの誤審で大きな被害を経験し、1978年の本塁打判定では1時間19分という空前の抗議があった国である。アメリカよりもむしろ、ビデオ判定導入の必要性をもっと積極的に考えてしかるべきなのである。




(2008年12月作成)

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