飛ばないボールによる通算記録への弊害
〜2011年・2012年の飛ばない統一球の悪影響〜


犬山 翔太
 
 1.情報を隠ぺいしていた飛ぶボール

 2011年から、プロ野球が国際大会への適応を図るために導入した統一球は、世界で最も飛ばない球と言われるほど、飛ばなかった。
 実際、プロ野球機構が定める平均値の範囲すら下回っていたのだから、まさに戦前の粗悪なボール並だったわけである。

 私は、開幕から約1か月がたった2013年4月27日のブログで以下のように記している。

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 メディアやファンの間で、今年から統一球が「飛ぶボール」になったと評判である。
 確かに、ここ2年とは異なるハイペースで、本塁打が出ている。このままいけば、2010年と同等の本塁打数になるだろう。
 テレビを見ていても、去年より打球が飛ぶようになっているのは一目瞭然である。

 しかし、どうしてまた「飛ぶボール」にしたのか、全く不透明である。NPBからは、何の発表もなく、完全にブラックボックスの中で、事が運ばれてしまっている。
 原因を探っていけば、統一球とWBC球が全く別物であったこと、そして、本塁打数がここ2年激減してプロ野球人気低下が懸念されること、そして、WBCで3連覇という結果を残せず、かといって打撃力が上がったわけでもなく、投手力は逆に低下してしまったこと。

 結局、統一球で飛ばないボールにしたメリットがほとんどなかった、というわけなのだ。とはいえ、何の前触れもなく、ボールの反発係数が変わってしまうことに対しては、通算記録という側面を見ても、喜ばしいことではない。
 ボールを変える場合は、やはり国民に分かる形でボールの材質や反発係数の変更点を公表してもらいたいものである。

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 私は、ボールの飛び方が2012年と大きく変わってしまったことに確信を持っていた。それは、当然、球界全体で打率や本塁打数が大きく伸びていたせいである。
 しかし、意外なことにメディアで流れる情報は、相反する内容で二分した。
「統一球が飛ぶようになった」
「統一球導入3年目で打者が対応した」
 前者は、ボールの質が変わったという見方であり、後者は、ボールは変わっておらず、変わったのは人だ、という見方である。

 考えてみれば、2011年から2012年にかけて、打者の進歩が見られなかったのに、2013年になって急に打者が進歩した、とは考えにくい。
 もはや、ボールが変わったとしか考えられない状況をデータが示していたにもかかわらず、NPBとミズノは、隠し通そうとしていたのである。

 2.通算記録に与える影響の大きさ

 2011年からNPBが統一球の導入を決めたとき、メーカーを1社の独占状態にし、低反発にするように変えた。
 1社独占にしたのは、それまでミズノ、ゼット、アシックス、久保田運動具店の4社に分散していては、統一した基準の球を製作することが困難だからである。アメリカ大リーグでは、1878年から1社が独占状態にあり、球団によって使用ボールが異なることはない。日本も、大リーグのやり方に倣ったのだ。
 また、低反発にしたのは、国際大会では飛ばない球を使用しているため、それに適応できるようにする、という狙いもあった。

 しかし、前述したように飛ばない統一球は、本塁打数が減り、観客動員に陰りをもたらしたばかりか、打撃力向上にほとんど効果がなく、逆に投手力に陰りが出てしまうという悪影響だけが残った。
 さらに、ミズノの独占状態にしてしまったことが、2013年のNPBの統一球変更とその情報隠ぺいを容易にしてしまったのである。

 2013年に統一球が飛ぶ仕様に変更となったことに対しては、異論はないのだが、ここ3年のNPBの迷走によって、選手の通算記録や調子に大きな影響を与えたという弊害は取り返しがつかない。

 セリーグの打撃成績     
打率 安打 二塁打 三塁打 本塁打  打点
2010 .267 7814 1357 127 863 3573
2011 .242 6769 1039 114 485 2596
2012 .244 6865 1085 98 454 2570
2013 .254 3418 1178 98 714 3260


 パリーグの打撃成績     
打率 安打 二塁打 三塁打 本塁打  打点
2010 .270 7932 1422 127 742 3684
2011 .251 7122 1148 120 454 2818
2012 .252 7132 1148 142 427 2771
2013 .262 7580 1240 138 597 3299

 2010年と2011年・2012年を比較してみると、2010年に比べて2011年・2012年は、打率、安打、二塁打、本塁打、打点が著しく低下している。
 打率で言えば、セパ両リーグともに2分ほど低下しているし、安打数も1割以上にあたる800〜1000安打程度減少している。同様に打点も、4分の1程度低下している。最も深刻な影響を受けたのが本塁打で、4割から5割程度減少してしまっている。
 つまり、2010年には3割、30本塁打、100打点、150安打を挙げていた打者も、2割8分、18本塁打、75打点、135安打程度の成績しか挙げられなくなったということである。
 たった2年のことではあるが、これが通算成績に与える影響はかなり大きい。
 統一球の反発係数が上がって飛ぶ仕様となった2013年も、まだ2010年の状態にまでは戻っていない。興味深いことにちょうど2010年の球と2011年・2012年の球の中間にあたる成績となっていることが分かる。

 セリーグの投手成績     
防御率 完投 無点勝利 奪三振 四球 
2010 4.13 45 60 5762 2530
2011 3.06 61 88 5841 2279
2012 2.86 54 107 5544 2406
2013 3.72 47 76 5860 2802


 パリーグの投手成績     
防御率 完投 無点勝利 奪三振 四球 
2010 3.94 85 66 6142 2578
2011 2.95 107 108 5677 1985
2012 3.03 77 78 5231 2271
2013 3.57 58 71 5714 2723

 投手については、打者とは逆のことが言える。2010年に比べて2011年・2012年は、防御率が約1点良くなっている。完投数や無点勝利も増える傾向にある。打者を警戒する必要が減少したせいか、四球も減少している。
 2010年に防御率が3点だった投手が2011年・2012年には2点で抑えられるようになるため、投手にとっては、まさに天国のような2年間が訪れていたわけである。

 ただ、統一球であり、均等に打者に不利となり、投手に有利になるという性質上、球団間の損得はない。ゆえに12球団からは大きな批判が出ていないのだが、不幸なのは、この統一球によって翻弄された選手たちである。
 飛ばない統一球に代わって成績が悪化したことで戦力外となった打者もいるであろうし、逆に飛ばないからこそ抑えられていた投手は、2013年以降、相当な苦労を強いられることになるだろう。
 データは、残酷なもので、投手成績を見ても、防御率で分かるように、2013年は2010年と2011年・2012年の中間にあたる成績に落ち着いている。つまり、2010年までの高かった反発係数を2011年・2012年は低くしすぎたため、2013年は、中間の反発係数にした、という実態が浮かび上がってくるのである。

 過去には1948年から1950年、1978年から1980年にかけてラビットボールという飛ぶ球が使われた例はあるが、2011年・2012年のような、ここまで飛ばない球が使用された例を見るなら、戦前戦後の粗悪なボールを使用した時代にまでさかのぼらざるをえない。

 このように考えていくと、やはり通算記録に大きな弊害をもたらし、選手生命をも左右する球の変更は、避けるべきである。2011年に反発係数をそろえた統一球にしたことは評価できるが、そのときに誤ったのは、それまで使用してきた球の平均値の反発係数にせず、規定の下限値にしてしまったことである。
 野球は、最も多くの項目が記録として残るスポーツであるだけに、記録の重要性を再認識し、2013年に使用した反発係数をさらには変更しない勇気をNPBは、持ち続けてほしいものである。





(2014年1月作成)

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