アーチ競演の乱打戦

                                                 山犬

 
8月11日の近鉄×西武戦。それを見るために僕は、「伝説のプレーヤー」発案者のもっさんと大阪ドームへ出かけた。
 なぜ近鉄×西武戦を選んだかと言えば、ローズ・カブレラ・中村が史上最高のペースで本塁打王争いを繰り広げていたからだ。
 野球ファンなら、今年のこの3人を見逃すわけにはいかない。
 夏休みでお盆前の土曜日、しかも午後3時からのデーゲームということもあって、観客は3万6千人。
 パリーグにしては、かなりの大入りと言えよう。既に守備練習を見ただけで、僕は野球少年に戻っていた。野球場と選手たちは、僕らに魔法をかける。

 予告先発は、西武が三井、近鉄がパウエル。どちらも、防御率ランキングに入ってない投手だ。
 何となく乱打戦の予感があった。
 見せ場は、まだ見る側の準備ができてない1回から訪れた。西武は、四球と死球で出たランナー2人を置いて4番のカブレラが38号3ランをバックスクリーンに叩き込んだ。ヘビー級の格闘家を思わせる肉体と、剣道の上段の構えのようにバットを大きく振りかぶる豪快なフォームは、底知れぬ怪力を想像させるに充分だった。
 すると、今度は対抗するかのように近鉄が1回裏の攻撃で、ローズがバックスクリーンへ41号ソロを放てば、中村が弾丸ライナーで左中間スタンド中段へ34号ソロ。バットをキャッチャー側に寝かして揺らす独特のフォームからしなやかなスイングで放つローズの打球は予想以上に伸びていった。また、ゆったりとした間合いからアウトステップでフルスイングする中村の打球は低い弾道でほとんどスピードを失わずにスタンドに突き刺さる弾丸であった。これでアベック弾は、今季6度目となった。
 1回の攻防だけで、1試合分の価値を既に持っていると言っても過言ではないほど、すさまじい攻防だった。
 夢じゃないか。練習じゃないのか。そう疑ってしまうほどの勢いで、気がつけば1回が終わっていた。3−2で西武リード。
 それが波乱の幕開けであった。

 2回に入っても両チームの勢いはとどまることを知らず、西武が柴田のセンター前ヒットで1点を挙げれば、近鉄も北川の左中間への4号本塁打で4−4の同点に追いつく。
 そして4回には西武2番手の後藤から磯部がレフト前ヒットを放ち、逆転に成功。
 近鉄の先発パウエルは、3回から5回までを0点で防ぎ、立ち直ったかに見えた。
 しかし、疲れが見えた6回、マクレーンに左中間スタンドへ28号ソロを浴びる。再び同点だ。
 そして次の小関に安打を許すと、近鉄の梨田監督は、パウエルをついにあきらめ、湯舟を出した。湯舟は、元阪神のエース。大阪のヒーローだ。
 しかし、結果は、無残にも1打者3球で逆転2塁打を浴びて降板。あまりにも寂しすぎる結末には、厳しい世界の栄枯盛衰を感じずにいられない。
 伊東もリリーフした愛敬からレフト前へタイムリー。西武が7対5とリードを奪った。
 西武は、8回にも三沢から柴田の3塁打で1点を追加。投手もデニー・橋本・青木が踏ん張り、8−5とした。中でも橋本は、連続中継ぎ登板の日本記録を更新中。こういう世間ではいまいち評価されにくい中継ぎの好投手が西武にはいるのだ。

 その裏、近鉄も粘りを見せ、2死から北川・ギルバートの連打で1・2塁とした。
 ここで近鉄は左の代打川口を告げる。ここで西武の東尾監督は、9回を待たずに守護神豊田を投入。ここで一発を浴びては大変なことになる。西武側の試合への意気込みを充分に感じ取ることができた。
 しかし……。
 川口は、豊田から右翼ポール際への大飛球。まさか……。
 理屈では分かっていても、出るとは思わなかった起死回生の11号同点3ランだ。8−8。
 打った川口は、プロ入り5年目の25歳。昨年までの4年間の通算成績が打率.245、11本塁打。それなのに今年は、既に.305、11本塁打の成長ぶり。
 近鉄は、選手を育てるのがうまい球団だ。自前で育てた選手たちがいい仕事をしている。
 それでも、9回表、西武は、近鉄のリリーフ岡本からカブレラが右中間スタンドに運ぶ2ランで再び突き放す。そして伊東も左中間2塁打を放ち、11−8。テレビでは聞こえない大歓声や野次が心地よく響く。球場の醍醐味だ。
 9回裏。さすがに今度は豊田が抑えた。これが防御率1点台を誇るリリーフエースのプライドか。

 近鉄は、本塁打4本放っても、8点取っても勝てない。それがこの試合のすべてを物語っていた。
 野球をこよなく愛したアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領は「野球で最も面白いのは8対7の試合である」という言葉を残している。
 僕は、その言葉が確実に当を得ていることをこの体験から断言しておきたい。
 午後3時に始まったゲームは、終了時には7時を過ぎていた。
 9回表の得点がもし1点だけだったらなあ。
 ちょっと味気なかった9回裏が僕には心残りだった。これだけの試合を見ておいて、さらに面白いシチュエーションを要求する。それが野球ファンだ。
 野球ファンというのは、どうしてどこまでもぜいたくなものなのか。
 僕は、3塁側の西武応援席に陣取って西武を応援していた。確かに西武が勝ったが、僕は、個々の選手たちのプレーに着目して見ていただけで、どちらのチームを応援しているわけでもなかった。
 これは、あまりいい野球の楽しみ方ではない。どちらかのチームを自分のホームチームとして熱狂的に応援した方がはるかに楽しく見られるのだ。これは、イチローと佐々木で、マリナーズを日本人全体のホームチームにしてしまった任天堂の経営戦略を見れば明らかだろう。
 ともあれ、この日、投手力の西武が猛打の近鉄に打ち勝ったことは、大きな意味を持っている。この試合は、西武がもし優勝した場合、おそらくキーポイントとして語られることになるだろう。

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