真夏の高校野球に改革を
〜猛暑の中でプレーさせるべきではない〜


犬山 翔太
 
 1.夏の高校野球を見直すべき

 夏の風物詩と言えば、高校野球である。全国47都道府県の高校球児が甲子園という大舞台を目指して熱戦を繰り広げ、そして、勝ち抜いた精鋭たちが頂点を目指して甲子園で躍動する。
 高校野球は、毎年毎年、記憶に残る伝説を残してくれる。私も、少年の頃は、桑田・清原のKKコンビが活躍するPL学園の試合に熱狂していたし、松井秀喜の5打席連続敬遠
や松坂大輔のノーヒットノーランにも熱狂した。田中将大と斎藤佑樹の投げ合いに手に汗握り、ダルビッシュや藤浪の剛球に将来を嘱望した。

 そんな夏の高校野球のあり方が物議を醸している。年々暑さが増す一方の気候のせいで、高校球児たちが熱中症になる危険が高まり、炎天下での試合開催に対して見直しを求める声が高まっているのである。

 しかし、その一方で、高校球児や応援する生徒たちが熱中症にかかるのは、鍛錬不足だといった指導者の声も報道されている。
 日本では、真夏の炎天下で球児に水分補給もさせず、長時間練習させることが理想の鍛え方と考えられている時代があった。そのような伝統は、今でも続いている学校も存在し、そんな学校の指導者にとっては、鍛え足りないという結論になるのである。

 確かにエアコンの効いた快適な室内で暮らす現代の生活環境が人々の暑さへの対応能力を減退させていることは、否定できないが、温室効果ガスの影響で今後もますます進むであろう温暖化の中で、何らかの対策をとらないと、多くの高校球児や応援する生徒が熱中症の被害に遭い続けることになる。取り返しのつかない事態が起こらないうちに、対策する必要があるのだ。


 2.対策の方法

 夏の高校野球を取り巻く環境は、どれほど変化してきたのだろうか。
 過去のデータが比較的揃っている大阪を例にとって見てみると、下記の表のようになる。

年代  7月
最高気温
 7月
平均気温
8月
最高気温 
8月
平均気温 
 1946〜1955  30.9℃  26.5℃ 33.0℃ 27.9℃
 1980〜1989  30.9℃  26.7℃ 32.9℃ 28.2℃
 2003〜2012  31.6℃  27.5℃ 33.7℃ 29.0℃

 データを見てみると、戦後10年間と1980年代10年間との間には、多少の気温上昇が見られる者の、ほとんど差がないことが分かる。
 しかし、1980年代10年間から最近10年間の間には、ほぼ1℃の気温上昇が見られる。
 これは、7月、8月の最高気温、平均気温のいずれにおいても同様であり、ここ20年間で急激な気温上昇をもたらしているのである。この過酷な温暖化が今後、さらに加速するのか、減速するのかは予測しがたいが、状況を見れば、加速する可能性がかなり高いと判断できる。高校球児や応援する生徒にとっては、どんどん過酷な環境に追い込まれていくのである。

 それならば、夏の高校野球をどのように見直し、改革するか。ニュースやネット記事などで出ている意見を集めるとこうなる。

  @高気温になる時間帯の試合を別の時間帯に変更する。
  A全試合をナイター開催に変更する。
  B夏の大会の開催時期を変更する。
  Cエアコンで温度調整できるドーム球場で開催する。
  D守備中に随時水分補給できる仕組みを作る。


 @とAは、よく似た意見なのだが、全試合をナイター開催にするには、1つの球場で1日2試合程度しかできないことになり、大会期間が2倍に延びてしまうので、現実的ではない。
 @の高気温になる時間帯の試合を別の時間帯に変更する方法であれば、現在行われているような時間帯を一例とすると、8時〜10時、10時〜12時、13時〜15時、15時〜17時といった時間帯を、6時〜8時、8時〜10時、15時〜17時、17時〜19時といったふうに変えられる。つまり、1日のうち、高気温となる10時から15時までの時間帯に試合をしないように変えるのである。

 また、Bの夏の大会の開催時期を変更するというのも一案ではある。熱くなりすぎる前の6月に開催したり、暑さが峠を越した10月頃に開催するという手はある。そうなると、夏休み前・夏休み期間ではなくなるので、学校の勉学に影響を与えかねないという欠点がある。

 Cのエアコンで温度調整できるドーム球場で開催する案については、夏の甲子園では開催を考えることはできるだろうが、地方大会のことを全く考慮していない案である。当然のことながら、ドーム球場は一部のプロ野球球団の本拠地くらいにしか存在しておらず、それも地方大会で使用できる見込みはない。
 仮に使用できるとしても、圧倒的にドーム球場の数が不足しており、球に各都道府県にドーム球場を作れるわけでもないため、現実的ではないのである。

 Dは、球場の地面に水分補給用の水筒を埋めるような場所を作っておくといった方法によって、定期的に守備に就いた選手たちが水分補給をして熱中症を防ぐという手段として有効である。他にも、定期的にグラウンドに水をまいて、地面の表面温度を下げるという方法も検討に値するだろう。

 私としては、@の案とDの案を組み合わせて、高校球児や応援する生徒の健康に配慮した夏の大会になることを期待する。自然環境が急激に変化していく以上、それに的確に対応していくのもまた教育である。






(2013年7月作成)

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