日本国内の他球団外国人選手獲得の規制を
〜巨人の他球団外国人選手乱獲〜


犬山 翔太
 
 1.日本球界の外国人選手を引き抜く巨人

 近年の巨人を見ていると、一体どの球団が試合をやっているのか分からなくなるときがある。
 他球団の主力選手を次々と獲得し、チームを強化しているためである。時にはそのままセリーグのオールスターチームとして成り立つのではないかとさえ感じることもある。優勝して当然という戦力を常に整えているのだ。

 FA制度導入以降、巨人は、FA権を取得した他球団の日本人選手を獲得して、その力によって数々の優勝を成し遂げてきた。
 そして、近年ではそれに加えて日本の他球団から獲得した外国人選手の力も利用して2007年、2008年とリーグ連覇を成し遂げたのである。

 巨人には、正力松太郎が残した巨人軍憲章とも呼ばれる有名な遺訓がある。
@巨人軍は常に強くあれ
A巨人軍は常に紳士たれ
B巨人軍はアメリカ野球に追いつけそして追い越せ

 これは、現在に至るまで巨人の中で生き続けている。その@は、最も重要であり、巨人は、2006年にリーグ優勝を逃すまで4年連続でリーグ優勝を逃したことは、かつて一度もなかった。
 それでも、何とか2007年に5年ぶりのリーグ優勝を成し遂げた巨人は、既に優勝できる戦力があるにも関わらず、補強を重ね続けている。
 そこには、Bのパワーに頼るアメリカ野球を目指す方向も、感じることはできるのだが、Aの「常に紳士たれ」という部分は、全く守られていないように感じてしまう。
 紳士という言葉には、地位や資産のある人という意味も含まれているので、巨人ブランドや高額な年俸につられて集まってくるFA選手や外国人選手も紳士の範疇に入るのかもしれない。
 だが、豊富な資金力のみで他球団から寄せ集めた選手たちが紳士に見えるか。旬の選手ばかりを集めて、力が少し衰えたら使い捨てにする球団のやり方を紳士と呼べるか。と言えば、どうしても肯定はできないのである。

 近年は、他球団の日本人選手が巨人よりは大リーグへ移籍することを選ぶようになった。日本では巨人の資金力と人気に及ぶ球団はないが、大リーグには、巨人を遥かにしのぐ球団が数多く存在する。FA宣言する日本人選手の獲得失敗を補てんするために、巨人が力を入れるのが、日本の他球団で活躍する外国人選手なのである。


 2.エスカレートする巨人の獲得戦略

 私は、かつて巨人が強くなれば、プロ野球人気は盛り上がると考えていた。かつては、そうだったのかもしれない。
 しかし、現在は、巨人が強くてもプロ野球人気が上昇するわけでもなく、巨人が弱くてもプロ野球人気が下降するわけでもない。
 プロ野球ファンの多様化と言ってしまえばそれまでだが、世間の野球の見方が玄人になってきたことが最大の要因のような気がする。

 1990年代に入って以降、FA制度やドラフト逆指名、大リーグ挑戦などで、プロ野球選手の球団選択が大きく変わり始めた。
 それまではトレードや戦力外でしか成り立たないのが通例だった好きな球団への入団が容易になってきた。
 そんな時代の流れの中で、巨人は、有望選手を集めるのに躍起になった。1980年代にはほとんど見られなかった日本の他球団で活躍する外国人選手の強引な引き抜きを、恥も外聞も気にせず、実行し続けるのである。
 
 確かにV9時代までの巨人は、外国人選手を毎年のように補強しなくても強かった。しかし、ドラフト制度ができて以来、巨人の強さには陰りが見えてきたのも事実である。それに伴って巨人は、1970年代から外国人選手獲得に力を入れるようになり、1980年代、1990年代とその勢いは増していく。
 とはいえ、巨人が海外から獲得してくる外国人選手は、クロマティ以外、お世辞にも成功を収めたとは言えなかった。スカウト、獲得後の指導も含めて、大した成果を上げられないまま、優勝回数が激減してしまったのである。 
 
 そんな失敗を繰り返すうちに、最もてっとり早い手段として巨人が多用するようになったのが、他球団で活躍する外国人選手獲得である。
 他球団がスカウト、指導を行い、日本野球に適応させて活躍するまでになった外国人選手を資金力と人気を背景に獲得してしまう作戦である。

 これは、1990年代半ばから顕著になり始めた補強策で、1995年にヤクルトで本塁打王にも輝いたハウエルを獲得したところから徐々にエスカレートしていく。
 1997年にはロッテのエースだったエリック・ヒルマン投手を獲得する。これは、ヒルマンが故障していたことにより、記録的な失敗に終わるが、懲りない巨人は、1999年に西武で2年連続30本塁打を記録したドミンゴ・マルティネスを獲得する。マルティネスは、1年目から打率.324、16本塁打を残すまずまずの成績を残した。
 すると、2000年には阪神で活躍したダリル・メイ投手を獲得し、メイは、シーズン12勝を挙げる活躍を見せた。
 2003年にはヤクルトの主砲ロベルト・ペタジーニ、ダイエーで守護神を務めたロドニー・ペトラザを獲得し、マスコミに「欲しい欲しい病」とまで言われた他球団外国人選手の引き抜きに歯止めがかからなくなる。

 さらにエスカレートした巨人は、2004年、近鉄の大砲にしてシーズン55本塁打の記録を持つタフィ・ローズを獲得。ローズは、巨人でも本塁打を獲得する活躍を見せる。さらにこの年、ロッテでセットアッパーとして活躍するブライアン・シコースキーも獲得して、中継ぎを強化した。
 2006年には近鉄、オリックスでエースとして活躍したジェレミー・パウエルを獲得。パウエルは、その年、シーズン10勝を挙げる活躍を見せた。
 そして、この年には韓国でアジア記録のシーズン56本塁打、ロッテでもシーズン30本塁打を放った李承ヨプを獲得し、李は、期待に応えて41本塁打を放つ活躍を見せた。
 さらには、阪神で活躍したジョージ・アリアスも獲得したが、アリアスは、既に衰えを隠せず、この補強は失敗に終わる。

 2008年にはヤクルトのエース、セス・グライシンガーとヤクルトの主砲アレックス・ラミレスを獲得。さらには横浜の守護神マック・クルーンを獲得して、6年ぶりに日本シリーズ出場するところまで強化した。
 もはや外国人選手が飽和状態に達しているため、2009年にはヤクルトで活躍したゴンザレスの獲得にとどまったが、他球団は、巨人の動向にかなりの神経を尖らせている。
 その一端は、2009年7月7日に明らかになったヤクルトと林昌勇の契約に見てとれる。2008年にヤクルトに入団した韓国人投手林昌勇は、ヤクルトで守護神として2008年、2009年と活躍し続けているが、ヤクルトとは、2年契約で、3年目はヤクルトが選択できるオプション制となっていた。
 そのため、もしかしたら3年目は巨人や大リーグへの移籍があるかも、との憶測が流れ始めたため、慌てたヤクルトがシーズン中盤であるにもかかわらず、3年目の契約を結んだのである。
 日本人選手においてもそうなのだが、巨人以外の各球団は、看板選手を引きとめておくためには、少々のリスクを冒しても、長期契約を結ばざるを得ない、という状況に追い込まれているのである。


 3.外国人選手引き抜きに歯止めをかける規則が必要

 ヤクルトは、2008年に外国人選手のエースと主砲を引き抜かれながら、2009年には優勝争いに加わる健闘を見せている。 
 林昌勇は、守護神として素晴らしい防御率を残し、3年目のアーロン・ガイエル、1年目のジェイミー・デントナがまずまずの活躍を見せている。
 ここ10年ほどの中で、海外から外国人選手を獲得してきて日本で指導し、活躍させる手腕においては、ヤクルトが最も優秀と言っていい。
 日本の他球団から獲得した外国人選手がいないため、新鮮で魅力的な戦いぶりが感じられる。

 その一方で日本の他球団から獲得した外国人選手が多い巨人は、安定した戦いぶりで前半戦を首位で折り返すも、盛り上がりに欠けるように感じられる。寄せ集めの戦力であるため、新鮮さと魅力に欠けてしまうのである。そういったところが、巨人の人気低迷を招いている原因なのかもしれないが、巨人も旬の外国人選手やFA選手のみで構成する戦力に危うさを感じているのか、近年は若手選手の育成も並行して行うようになってきている。
 坂本勇人や亀井義行を我慢して1軍で起用し続けて育てたり、育成選手上がりの山口鉄也、松本哲也、オビスポを成長させて戦力となるまでにしている。
 2009年開幕時点で、巨人は、11人の育成選手を抱える。これは、12球団でロッテと並んで最も多く、人数制限がないことから今後も増え続ける可能性は高い。
 そうした自前の選手をようやくにして育てる環境を整えつつあるところに、強くとも人気低迷が続く巨人の危機感が見て取れる。
 
 だが、これまで自前の選手育成に失敗を繰り返してきた巨人が今後、持続的に自前の名選手を育て上げられるかは疑問符がつく。ゆえに、他球団が心配するような外国人選手の引き抜きが今後、もっとエスカレートしていく可能性も否めない。
 制度としてそれを防ぐ規則を作らないことには、今のヤクルトの外国人選手がそのまま3年後には巨人の外国人選手になっている、という事態もありえるのである。
 日本の他球団に在籍する外国人選手と契約した場合、以降3年間は、その他球団の外国人選手とは一切契約できない、といった規則を作らないことには、ヤクルトが巨人の外国人選手育成球団となってしまっている現状を変えることは困難である。





(2009年8月作成)

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