タイトルを左右する規定投球回と規定打席
山犬
 

プロ野球のタイトルについてちょっと考えてみたいことがある。
 防御率と打率のことである。
 僕は、最優秀防御率と首位打者というのがタイトルの中で最も重要であると思っている。
 打者の本塁打王は最も本塁打を多く打った選手ではあるが、打率が2割そこそこでほとんど確実性のないバッターでもとることが可能である。
 打点王は最も勝負強いバッターではあるけれど、前にランナーで出る確率に左右される。つまり、自分の前を打つ二、三人のバッターの実力頼みになる部分が大きい。
 一方、投手の最多勝は、点を取られる以上に自分のチームが点を取ってくれれば獲れるタイトルでもある。つまり毎試合5点取られていても、味方が6点取って勝ち投手になっていれば最多勝が可能なのである。
 最多奪三振もどれだけ打ち込まれてもアウトを三振で取れば増えていくし、最優秀勝率も味方打線に依存しがちである。
 最優秀防御率は、自らの責任で最も点を取られなかった投手。首位打者は、最も安打を打つ可能性が高かった打者。確実性の証明になり、他者への依存も少ないタイトルである。
 僕が言いたいことは、最優秀防御率と首位打者が第三者から見ても、その年で最も良い成績を残した優秀な投手と打者であるということだ。
 ただ、二つのタイトルの共通点は、規定が存在することである。防御率には規定投球回、打率には規定打席。
 これが実に厄介なものである。

 規定投球回と規定打席は、きっちりとした尺度に基づいている。
 規定投球回は、投手が1試合1イニング投げると計算した場合の年間イニング数である。つまり、現在では140試合あるから140イニングとなる。
 また、規定打席は、打者が1試合に最低3.1打席立つと想定した場合の年間打席数、すなわち現在なら434打席である。裏の攻撃でチームが1安打の本塁打のみで勝った場合、8番打者と9番打者は2打席しか回ってこないではないか、と言う人もいるかもしれないが、そのような例外は考え込まれているわけではない。
 僕は、この規定投球回と規定打席があまりにも多すぎるのではないか、と考えている。
 特に投手の場合、年間140イニング投げるにはなかなかの労力を必要とする。
 1980年代以降の野球はきっちりとローテーション化が進み、1週間に1度しか先発しないというのがごく当たり前になっている。しかも、中継ぎ投手が重視されるようになり、先発完投型の投手は激減傾向にある。さらに、ドーム球場が増えたせいで、試合が雨で流れることがかなり少なくなった。
 大抵の場合、1週間に6試合こなすことができる。だから、規定投球回も週6イニングずつ増えていく。となると、単純に考えれば、投手は必ず1週間に6イニングずつを投げていかなければ規定投球回に到達しない計算になってしまう。
 もし仮に3イニングでノックアウトされてしまった場合、次の試合では必ず完投しなければ規定投球回を満たせないのである。そう考えるとかなり厳しい事情であることが分かってくる。
 打者も8番を打っていれば、ほぼ全試合にフル出場しなければ、規定打席に到達するのは難しい。ちょっとした故障で10試合くらい休んだだけで、規定打席は33打席も増えてしまっている。試合数も増え、日程が厳しくなっている現状でこれだけ多くの打席を求めるのは酷だと僕は考えてしまう。
 そのため、規定投球回にわずかに到達していないものの、その年最高の防御率を挙げた投手や、規定打席にわずかに満たないものの首位打者以上の打率を残した選手がたまに存在することになる。
 もう少し基準を緩和して減らした方が現代野球に合っているのでは、と思ってしまうのも無理はないだろう。
 通算打率や通算防御率は、何故4000打数以上や2000投球回以上という規定になっているのだろう、というのはよく聞く疑問ではあるけど、シーズンの規定投球回と規定打席もなかなか難しい基準なのである。
 
 規定投球回は、かつて変更されたことがある。1963年までは試合数×1.4というかなり厳しい基準だった。140試合あれば196イニング投げなければいけないことになる。現在のようなローテーションを組んでいては到達できる選手はほとんどいないだろう。それが1964年からは、1.4を1に減らして現在のような基準になった。おそらく戦前戦後のように少ない投手を使い回して試合を消化していくスタイルが投手層が厚くなってきたことで変わってきたからではないかと思われる。
 この前例を見ると、時代とともに規定投球回などを減らしていくことは可能なように思えてくる。
 ただ減らすといっても、新しい規定を作るのは容易ではない。ただ端数を切り捨てて100イニング、400打席にすれば済むような話でもないからである。
 また、2000年の戎信行投手のように、シーズン半ばから先発に定着し、最後は最優秀防御率のタイトル獲得のために登板を増やし、打ち込まれても投げ続ける、という事態はどのような規定であっても行われるだろう。
 それなら、1週間6試合の周期に合わせて当てはめてはどうだろう。投手なら1週間6試合で5イニングを責任回数として年間約23週になるから115イニング。打者なら1試合あたり3打席を責任打席として1週間5試合出場で約23週として345打席。
 そうすれば、少し出遅れて活躍し始めた選手や故障が思わぬ長引き方をした選手でもタイトルを獲得できるチャンスが増えて、面白くなるはずである。
 まるで夢のような話ではあるけど、最近、防御率のランキングを見ていて、チームのエースとして活躍している投手でも規定投球回をそれほど上回っていない現状に気づいて書いてみたくなった。


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