11月厳冬更改の意図と2つの要因
〜落合GMによる契約更改改革〜


犬山 翔太
 
 1.日本シリーズの余韻を消し去る厳冬契約更改

 2013年の日本シリーズは、11月3日に楽天が球団創設9年目にして初のリーグ優勝・日本一に輝いて終わった。仙台を本拠地とする楽天にとって、東日本大震災から2年で東北に活気と勇気、そして、大きな経済効果をもたらすことになり、プロ野球界にとってはこの上ない年となった。

 しかし、中日は、過去10年間で最悪の4位で12年ぶりのBクラスという成績に終わる。交流戦で負け越した上に、セリーグ全球団に負け越しという惨憺たる結果となった。それでも、辛うじて横浜とヤクルトの上にいるのは、1位巨人と2位阪神に善戦したためである。
 観客動員も、ナゴヤドーム創設後初めてシーズン200万人を割り込んだ。シーズンシートは、観客が来ていなくても観客数に入っているのか、見たからに半分に及ばない球場の観客数が2万人以上で発表されていた。関連グッズや新聞の売り上げ低下も考慮すると、球団としてはかなりの収入減となったのであろう。白井オーナーが「貧乏球団になってしまった」と発言したように、落合政権8年間で野球を見る目が厳しくなったファンが高木政権の2年間でかなり離れてしまったことになる。

 そして、日本シリーズ翌日の11月4日に飛び込んできた年俸2億5000万円の井端弘和退団ニュースは、球団経営の実態が露わになる前兆に過ぎなかった。
 11月5日からは落合博満GMの方針により、早くも契約更改が始まり、多くの選手が年俸制限下限ぎりぎりまで下げられ、一部の選手は、年俸制限を大きく超える減俸となった。
 これまでの常識では考えられなかった11月上旬からの契約更改と、過去最大の減俸続出は、日本シリーズの余韻さえ消し去るほどのニュースとして議論を呼んでいる。多くの人々が疑問として持つのは、この契約更改がどのような要因によって、どのような意図で行われているのか、であろう。


 2.年俸が上がりすぎたツケと観客動員が下がりすぎたツケ

 中日は、落合監督の8年間で4回リーグ優勝、5回の日本シリーズ進出、1回の日本一、すべてAクラスという圧倒的な成績を残した。常勝であったがために、選手の総年俸は、上昇の一途をたどり、2013年は12球団中、巨人に次ぐ2位の総年俸である。
 2013年のプロ野球球団別の年俸ランキングは、下記のとおりとなる。

2013年の球団別年俸額
年俸順位 球団 年俸総額 成績順位
1 巨 人 38億1610万円 1
2 中 日 31億7080万円 4
3 ソフトバンク 24億4950万円 4
4 阪 神 23億5500万円 2
5 日本ハム 21億8070万円 6
6 ロッテ 20億9200万円 2
7 オリックス 20億8650万円 5
8 西 武 20億3430万円 3
9 ヤクルト 19億3850万円 6
10 楽 天 18億3770万円 1
11 広 島 16億7390万円 3
12 DeNA 15億 470万円 5

2013年のセリーグ球団別年俸額
年俸順位 球団 年俸総額 成績順位
1 巨 人 38億1610万円 1
2 中 日 31億7080万円 4
3 阪 神 23億5500万円 2
4 ヤクルト 19億3850万円 6
5 広 島 16億7390万円 3
6 DeNA 15億 470万円 5

2013年のパリーグ球団別年俸額
年俸順位 球団 年俸総額 成績順位
1 ソフトバンク 24億4950万円 4
2 日本ハム 21億8070万円 6
3 ロッテ 20億9200万円 2
4 オリックス 20億8650万円 5
5 西 武 20億3430万円 3
6 楽 天 18億3770万円 1
(いずれも、外国人選手年俸を除く)

 全体年俸2位の中日がセリーグ成績4位であり、全体年俸10位でパリーグ年俸6位の楽天が全体年俸1位の巨人を日本シリーズで倒して日本一になったことは、プロ野球の面白さの一端を示している。年俸が圧倒的な1位である巨人は、常に巨額な費用をつぎ込んで補強に余念がないだけあって、安定した強さを誇っていると言える。
 2013年の中日の総年俸31億7080万円が本来、どの程度の金額であることが望ましいのかを上記の一覧表から考えると、中日の成績が限りなくセリーグ5位に近い4位であったことから考えて、12球団の中では8位と9位の間にあたる20億円程度が妥当な金額となる。
 つまり、2013年のチーム総年俸は、チーム成績を考えると、12億円近く余分に払いすぎている計算となる。
 選手たちに現状を知らしめるには、2位だった総年俸を現実の順位にまで下げるしかない。それが2014年に向けた契約更改で25%減が続出している1つ目の要因である。

 そして、2つ目の要因は、ナゴヤドームの観客動員が最近2年で減少に歯止めがかからない状況に陥っているということである。

ナゴヤドーム観客 プロ野球観客
動員数 前年比 動員数 前年比
2010 2,193,124 - 22,141,003 -
2011 2,143,963 2.2%減 21,570,196 2.6%減
2012 2,080,530 3%減 21,370,226 1%減
2013 1,998,188 4%減 22,047,491 3.1%増

 2011年は、プロ野球全体の観客動員が2.6%減であったのに対し、ナゴヤドームの観客動員減は2.2%にとどまった。これは、東日本大震災がありながらも、中日は、リーグ優勝を果たしたため、プロ野球界全体の観客動員減少に比べ、少ない減少で済んだのである。
 しかし、高木監督に代わって2位に落ちた2012年は、プロ野球界全体が1%減にとどまったのに対し、ナゴヤドームの動員は3%減と落ち込んでしまった。
 さらにBクラスに沈んだ2013年は、プロ野球界全体が3.1%増と野球人気が回復したにもかかわらず、ナゴヤドームは4%減という苦境に陥り、ついに200万人を割り込んでしまったのである。
 仮に入場料を3000円で概算しても、2年間で4億円以上が減少したことになり、球場での関連グッズ・土産物・飲食料の売上減を含めると、さらなる減益になっていることは間違いない。

 チームが強くなって、素晴らしい野球を見せていても観客減少するなら、選手に大きな責任はないが、チームが弱くなって、魅力のない野球を見せて観客減少を引き起こしているなら、選手に大きな責任がある。
 この2年間に限って言えば、後者であるため、選手たちの年俸を軒並み下げざるをえない状況になったのである。

 2011年にセリーグ連覇するまで常勝であったがゆえに年俸が上がりすぎたツケと、2012年から魅力のない野球をして順位を落とし、著しく観客が減少してしいまったツケ。
 この2つの大きな要因が厳冬更改を招いているのである。


 3.11月に主力選手の契約更改を行うサプライズの合理性

 プロ野球選手のオフは、シーズン終了後から春季キャンプ開始までの間である。4位以下の球団であれば、公式戦が終了する10月上旬からシーズンオフに入るが、日本一になってアジアシリーズまで出場すると、11月下旬からがシーズンオフということになる。主力ではない若手選手の場合は、10月下旬から11月中旬くらいまで2週間程度、秋季キャンプを行うので、シーズンオフは短くなる。

 春季キャンプの開始は、2月1日からになるが、それまでにも多くの選手たちは正月が開けた1月初旬から自主トレを開始する。
 つまり、プロ野球選手がシーズンオフとして仕事から解放されるのは、10月から12月までの間で、その選手の状況によって異なると言っていい。

 しかし、これまでの常識は、1月から新たなシーズンが始まり、2月の春季キャンプインによって本格的にシーズンが始まるというものである。
 そのため、アジアシリーズやその他の親善試合も終わる12月に主力選手の契約更改を行う、というのが通例となっていた。その時期は、プロ野球としての話題も少なく、主力選手の契約更改によってメディアへ格好のニュースを提供できるというエンターテイメント要素も重視していた。

 落合GMは、そういった従来の考え方にとらわれず、日本シリーズが終了した11月上旬に、まず主力選手から契約更改を行う、という方針を打ち出した。
 その意図は、主力選手の契約額が決まることによって、総年俸の予算編成をスムーズに行うことができ、年俸の少ない選手の契約更改もやりやすくなる。
 また、契約期間中である11月の方が選手を拘束しやすく、契約更改が終われば、来シーズンに向けた調整だけを考えて、すぐにでも2014年用の自主トレを開始することができる、という利点もある。
 これまで、年という枠組にとらわれていた考え方をなくし、契約更改が終わった11月から、来シーズンが始動しているのだ、という従来より2カ月近く前倒しで来シーズンに備える体制をとることができる。

 こうしたやり方は、メディアと親密な連携をとり、1年間の情報提供スケジュールを組み込んで、エンターテイメントとして野球をとらえていれば、実現は困難になる。また、アジアシリーズや親善試合、強化試合などといった国際大会を重視していた場合も、実現が困難になる。
 落合GMは、野球をエンターテイメントととらえるよりも競技としてとらえているがために、例年12月に埋まる契約更改情報が空白になってしまうことも恐れず、11月の契約更改を断行できた。また、落合GMがWBCやアジアシリーズ、親善試合といった国際試合を重視していない、ということが11月契約更改を可能にした。
 このオフの契約更改が2014年の中日にどのようにつながっていくかは、想像がつかないが、今後も、落合GMによる改革によって、プロ野球界の常識が打ち破られていく過程を見守りたい。





(2013年11月作成)

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