リーグを越えて移籍した選手
山犬
 働く環境を変えれば、もっといい仕事ができるに違いない。もっとレベルの高いところで仕事がしたい。もっと働き甲斐のある職場に移りたい。
 そんな意思を持っている人々は、どんな会社にも多くいる。現状に満足して、このままでいい、などと思っている人なんてそうはいない。
 一般の社会でそれまで勤めていた会社を辞めて別の会社に移る人がいるように、プロ野球の世界でも球団を移る人がいる。
 一番働きたい球団で働くために、あるいは、今より一段高いレベルの野球を求めて。こういう選手たちは、大抵一流であり、自らいくつもの球団の中から選ぶ権利を与えられる。
 一方、新たな戦力の台頭により、球団から必要とされなくなった選手も、自らをまだ必要としてくれる新天地を求めて移籍をせざるをえなくなることもある。こういった選手たちは、雇ってもらえるならどこへでも行かなければならないのだ。
 様々なのは移籍の理由だけではない。どれくらい異なる環境へ移籍するかも重要になってくる。
 同じリーグ内ならほとんど大きな変化もなく、前年までと同じようにプレーすることができる。これまで味方だった1球団が敵に変わり、敵だった1球団が味方になるだけだからである。他の4球団は今までと何ら変わりなく敵のままなのだ。
 しかし、リーグを越えて移籍したとなると、全くといっていいほど未知の球団、未知の選手たちとの遭遇になる。近年、増加している大リーグへの移籍に近いかもしれない。
 2002年、パリーグからセリーグに移った片岡篤史、アリアスの2人は前年の成績を大きく下回っている。クリーンアップとしてそれなりの成績を残してきた打者であってもリーグが変われば対応に苦しむのだ。
 では、過去の名選手たちはどうだったのだろう。以下に整理してみよう。
 
 
選手名 年齢 西暦年 球団名 打率 本塁打 西暦年 球団 打率 本塁打
山内一弘 32 1963 大毎(現ロッテ) .283 33 1964 阪神 .257 31
江藤慎一 33 1969 中日 .280 25 1970 ロッテ .288 11
35 1971 ロッテ .337 25 1972 大洋(現横浜) .250 18
大杉勝男 30 1974 日本ハム .234 22 1975 ヤクルト .237 13
田淵幸一 33 1978 阪神 .288 38 1979 西武 .262 27
落合博満 34 1986 ロッテ .360 50 1987 中日 .331 28

 大打者5人を並べてみても、リーグを越えた移籍はいずれも前年の成績を下回ってしまう。
 ただし、例外もある。張本勲は、36歳になる1976年に日本ハムから巨人に移籍し、成績を打率.276、15本塁打から.355、22本塁打と飛躍的に伸ばしたのだ。憧れの巨人に入団できたことで奮起したことがこの活躍の原因だと言われている。
 同じように辻発彦も1996年に西武からヤクルトに移籍し、打率.238を一気に.333に上げている。これは、故障の回復と西武を自由契約にされたことへの反骨心が生んだ活躍だろう。

 近年では清原和博、L・ロペスが挙げられるが、いずれも前年の成績を下回っている。清原は、前年をそれほど下回ってはいないのに、ファンの期待が大きすぎたためか、V逸の戦犯扱いを受ける結果となった。ファンとは記録よりも実感を大切にするわけだ。

選手名 年齢 西暦年 球団名 打率 本塁打 西暦年 球団 打率 本塁打
清原和博 30 1996 西武 .257 31 1997 巨人 .249 32
L・ロペス 32 1997 広島 .320 30 1998 ダイエー .294 17

 これに対して投手の場合はどうだろうか。かつての大投手の中から選ぼうとするとなかなか該当がいない。昔は、球団のエース級投手が簡単にリーグを越えて移籍することはタブー視されていたのだ。
 ところが、江夏豊は、そんな状況に反発するかのように、リーグを越えた移籍を3度繰り返している。時代を先取りしているかのような彼の移籍は、圧倒的な実力によってプロ野球にリリーフ革命をもたらし、行く先々で「優勝請負人」という称号も与えられた。他にリーグを越えた移籍をしたのは山内一弘との「世紀のトレード」で世間を騒がせた小山正明、高橋一三が目立つくらいである。彼らは、さすがに大投手だけあって移籍先でも一流の成績を残している。移籍によるダメージは成績からは全くと言っていいほど見られない。

選手名 年齢 西暦年 球団名 勝敗 防御率 西暦年 球団 勝敗 防御率
江夏豊 28 1975 阪神 12勝12敗6S 3.07 1976 南海(現ダイエー) 6勝12敗9S 2.98
30 1977 南海(現ダイエー) 4勝2敗19S 2.79 1978 広島 5勝4敗12S 3.03
33 1980 広島 9勝6敗21S 2.62 1981 日本ハム 3勝6敗25S 2.82
小山正明 30 1963 阪神 14勝14敗 3.59 1964 東京(現ロッテ) 30勝12敗 2.47
高橋一三 30 1975 巨人 6勝6敗 3.57 1976 日本ハム 10勝12敗 3.38

 逆に近年はFA制度のおかげで、大物投手のリーグを越えた移籍が増加している。

選手名 年齢 西暦年 球団名 勝敗 防御率 西暦年 球団 勝敗 防御率
吉井理人 30 1994 近鉄 7勝7敗 5.47 1995 ヤクルト 10勝7敗 3.12
武田一浩 34 1998 ダイエー 13勝10敗 3.62 1999 中日 9勝10敗 3.50
工藤公康 37 1999 ダイエー 11勝7敗 2.38 2000 巨人 12勝5敗 3.11
星野伸之 34 1999 オリックス 11勝7敗 3.85 2000 阪神 5勝10敗 4.04
小宮山悟 35 1999 ロッテ 7勝10敗 4.07 2000 横浜 8勝11敗 3.96

 最近、リーグを越えて移籍した5人のエース級投手に焦点を当ててみるとこうなる。投手の場合、ほとんどリーグを越えた影響は出ていないと言ってもよいのではないだろうか。
 星野伸之は、勝ち星が半分以下になってはいるものの、弱い阪神に移籍したためと考えれば、そう大きく防御率が落ちているわけでもないから他のチームなら前年並みの成績を残せていた可能性もある。
 ただ上記の5人はすべてパリーグのエース級投手であり、彼らの移籍により、2002年にはパリーグに通算100勝以上の投手がいなくなってしまう異常事態にまで発展した。移籍の激増は思わぬ弊害を生んでしまったのだ。

 他にも、リーグを越えて移籍した選手たちがいないわけではないのだが、年齢による衰えが顕著になってきていた、または、移籍前後に故障をしていた、という事例が多く、なかなか判断に難しい。
 しかも、これまでの事例を見て分かる通り、名選手の移籍がパリーグからセリーグへという方向に偏っており、セリーグからパリーグに移籍した例が少ないのだ。
 その傾向は、FA制度ができて以来、さらに加速し続けている。ということは、今後もセリーグからパリーグへ中心打者あるいはエース級投手が移籍することはかなり望みが少ないと言っていいかもしれない。元々、レギュラーで活躍し始めた全盛期の選手が移籍することは少ない。その上、現在は移籍するなら大リーグへという時代へと変貌を見せている。
 また、FA制度を取得するまで9年かかってしまう現状ではFA移籍する頃にはピークを過ぎているか、どこかに故障を抱えているか、となってしまいかねない。
 つまり、移籍という言葉には、それだけでかなりのマイナスイメージを持ってしまっている。移籍後すぐに活躍できる選手は極めて少ない。主軸としてかなりの活躍をしている選手でも、移籍前以上の成績を残すことは困難なのである。
 選手たちが、特に打者がリーグを越えて移籍することは大きな危険をはらんでいる。それは賭けや冒険に近い。移籍によって選手生命を縮めてしまった選手も多くいる。
 リーグを越えた移籍を考える選手がいる場合、選手生命を考えるなら、思いとどまった方が得策となっている事実も考慮に入れて見てみるといいかもしれない。



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