日本代表は、飛ばないボールで低下した投手力の強化が重要
〜日本代表がIBAFプレミア12で世界一になるために〜


犬山 翔太
 
 1.第3回WBCの結果から、第1回IBAFプレミア12に向けて

 2013年の第3回WBCから1年がたとうとしている。第4回WBCは、2017年に開催となるが、実は、2015年からもう1つの野球国際大会が開始となる。
 IBAFプレミア12は、国際野球連盟が主催して、プロ中心で構成した12か国(地域)のチームが世界一を巡って4年に1度戦う野球大会である。
 第1回となる2015年は、日本で開催されることが決まっており、この大会が今後成功していくかどうかは、第1回大会の盛り上がりと日本代表の奮闘が重要となってくる。

 2013年の第3回WBCも、第1回、第2回に引けをとらないほど、日本中を熱狂に巻き込んだ。昨今は、プロ野球中継の地上波の視聴率低迷がよく話題に上っているものの、WBCの視聴率を見ると、プロ野球人気が低迷しているわけではなく、低迷しているのは巨人人気であることが分かる。

 とはいえ、前回、前々回と日本代表は、見事に2連覇を果たしてきたが、この3回大会は、さすがに3連覇はならず、ベスト4という成績に終わった。
 前回大会で中心選手として活躍したイチロー、松坂大輔、岩隈久志、ダルビッシュ有といった大リーガー不在の中で、ベスト4という成績はまずまずという意見もある。メンバーを見れば、前回大会の時よりもどうしても見劣りしてしまうからだ。

 だが、決勝に進めなかった要因を探っていくと、日本代表チームとして総合的に前回代表チームより劣っていた部分が数多くある。大きく見ても、打撃力、投手力、守備力、機動力の面から見ても、前回大会を上回っていたとは言えない。
 そして、その中でも、大きく劣っていたのが投手力である。この投手力の低下こそが日本代表がベスト4に終わった最大の要因ではないかと考えるのである。


 2.投手力の低下

 プロ野球のペナントレースにおいて、投手力の高いチームが安定した成績を残せるというのは、もはや定説になりつつある。1980年代から1990年代にかけて圧倒的な強さを誇った西武、斎藤・桑田・槇原の3本柱を中心にして優勝を重ねた巨人、岡林・川崎・高津・石井らを中心に野村ID野球で常勝となったヤクルト、投手を中心とした守りの野球で8年間に4度優勝した中日。
 巨人やソフトバンクが豊富な資金力を背景に圧倒的な打撃力を備えて一時的に圧倒的な強さを発揮した例はあるものの、大半は、投手力が最も高いチームが安定した好成績を残している。

 それは、トーナメント方式であっても変わらない。高校野球でも、超高校級と呼ばれる打者がいるチームよりも、超高校級と呼ばれる投手がいるチームの方が勝ち進んでいる確率は高い。
 たとえば、松坂大輔やダルビッシュ有、斎藤佑樹、田中将大、藤浪晋太郎といった圧倒的なエースを抱えたチームは、甲子園に出場し、好成績を残しているのである。

 第3回WBCで気になったのは、何と言っても日本代表の投手力が前回大会を大きく下回っていたことである。
 確かに前回の第2回大会は、松坂大輔、岩隈久志、ダルビッシュ有という強力な3本柱がいたこともあるが、日本代表の通算防御率は、1.86と抜群の安定感を誇っていた。
 5勝3敗でありながら世界一に輝いた第1回大会ですら、日本代表の通算防御率は、2.49とまずまずの安定感を誇っていた

 しかし、今回の第3回大会は、前田健太の1枚看板といった投手陣になってしまった。もう1人の看板として期待された田中将大の調子が上がらず、直球を痛打される場面が目立った。
 また、先発として期待の高かった能見篤史と大隣憲司も、期待通りの成績を残せたとは言い難かった。
 こうした状況で追い込まれた日本代表投手陣の通算防御率は、3.84である。仮にプエルトリコに勝って決勝に進んでいたとしたら、強打のドミニカにさらに点を取られていたことが予想できるので、もっと悪い防御率になっていたはずである。

 日本で通用している投手陣が第3回WBCではあまりにも通用しなくなっていることに、私は驚きを隠せなかった。かといって、打撃陣についても第2回大会で打率.299だったのが、第3回では打率.279に下がってしまった。
 日本プロ野球が国際野球で成績を残すために統一球にしたのに、投打ともに前回大会を下回る結果しか残せなかったのである。


 3.日本が再強化するのは投手

 2011年から日本は、国際野球に対応するため、統一球を導入した。NPBでは、公式球の反発係数の基準値を0・4134〜0・4374と定めているが、2011年は、平均で0・405〜0・411、2012年も0・406〜0・411だったことが明らかになった。
 0・4034までは下限の許容値としているとはいえ、日本は、2011年と2012年の2年間にわたって、極めて飛ばないボールを使用していたのだ。
 これによって、投手の防御率は、飛躍的に向上し、2012年の巨人のチーム防御率は、2.16という恐るべき数値になってしまったのである。この防御率は、2010年以前であれば、チームのエースや守護神と呼ばれる投手でさえ出すのが難しい数値だった。それが並の投手でも、簡単に2点台前半の防御率を出せるようになった。

 こうして、投手が打者を簡単に抑えられるようになってしまったがために、投手の技術が全体的に低下した。
 そのうえ、打者は、2011年の本塁打数が939本、2012年は881本と減少した。統一球に慣れるどころか、統一球1年目よりも、2年目の方が本塁打数が減少してしまったのである。
 つまり、国際野球に対応して打者の飛ばす力や技術が上がるというのは全くの期待外れだったのだ。

 こうして、投手力も、打撃力も低下してしまった日本は、かつて世界に誇った投手力に陰りが見え、打撃力も進歩しなかった。WBCという世界大会で前回や前々回に匹敵する成績を残せなかったのは必然でもあるのだ。
 打者が統一球に対応できず、観客数減少に苦しんだNPBは、結局、2013年から反発係数を高めて、2010年以前の状況に近づけようとした。
 それをNPBが隠ぺいしていたために、大きな騒動になったのだが、本塁打数を増やしてエンターテイメント性を高め、また、優れた投手力を再建するためには、反発係数を高めるしか方法がなかったのだ。

 日本人選手は、欧米の選手に匹敵するような体格はないため、無理に飛ばないボールにするメリットがほとんどない。必要なのは、そうした体格のハンディをいかにして投手の制球力や守備力、機動力でカバーできるかである。
 そういった意味では、第2回WBCの戦いぶりを思い起こし、投手力から再整備することが必要である。

 今後、WBCが4年に1回開催されるわけだが、その中間点でIBAFプレミア12が開催される。
 つまり、2013年に第3回WBC、2015年に第1回IBAFプレミア、2017年に第4回WBC、2019年に第2回IBAFプレミアが開催となる。さらに、五輪の野球が復活するようになれば、毎年のように国際大会が行われる可能性もある。
 そうした国際大会で結果を出すためには、欧米人には叶わない打撃力よりも安定した投手力をまず整備し、それに加えて守備力と機動力を磨いて、日本人らしい技術力で対応することが安定して好成績を出すための秘訣である。




(2014年2月作成)

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