世界一強い球団を決める大会のあるべき姿は
 〜グローバル・ワールドシリーズ構想の行方〜


犬山 翔太
 
 1.世界一野球の強い球団を決める大会は

 世界一野球の強い国はどこか。その疑問に対しては、2006年にWBCが始まったことで、サッカーやバレーボールと同様に答えが出るようになった。
 そして、第1回WBC、第2回WBCと日本が二連覇を果たしたことで、国の代表選手を集めたチームでの試合では、日本や韓国が世界のトップクラスに位置していることが明らかになりつつある。
 しかし、世界一野球の強い球団はどこか。その疑問に対しては、まだ答えが出ていない。
 サッカーであれば、FIFAクラブワールドカップがあり、6大陸の大陸別王者チームがトーナメントでクラブチーム世界一を決める、という仕組みができている。まだ歴史は浅く、2000年が第1回大会で、大会運営方法もまだ流動的な部分が多いのだが、2005年からは毎年開催されていて、2007年には浦和レッズが3位、2008年にはガンバ大阪が3位となって、知名度も年々上げている。

 これに対して、野球は、WBCも五輪もあくまで国の代表としてプロ野球の各球団から選手を集めたナショナルチームの構成であり、単独の球団で世界一を決める大会は存在しない。国際大会としては、他にもIBAFワールドカップやIBAFインターコンチネンタルカップが存在するが、開催時期の問題でプロの参加はほとんどなく、アマチュアで日程統制可能な選手を中心に構成する状況となっている。

 つまり、現在のところ、世界一野球の強い球団を決める大会は、存在しない。
 そうした中で、2010年1月6日、突如としてニュースとなったのが「グローバル・ワールドシリーズ構想」である。大リーグのバド・セリグ・コミッショナーが日本プロ野球の加藤良三コミッショナーと会談したときに提案したのである。
 グローバル・ワールドシリーズは、大リーグのワールドシリーズを制した球団と日本プロ野球の日本シリーズを制した球団が世界一を賭けて戦うシリーズで、具体的な案はまだない。
 はたしてグローバル・ワールドシリーズが世界一野球の強い球団を決める大会となりえるのだろうか?


 2.グローバル・ワールドシリーズ実現の可能性と有効性

 日本一の球団とアメリカ一の球団が試合をしてほしい。そんな希望を私は、以前から持っていたので、グローバル・ワールドシリーズ構想が実現すれば、喜ばしいことである。
 これまでは、シーズン後に度々、日米がそれぞれ選抜チームを作って、緊張感があまり感じられない日米野球が行われてきたが、日本一とアメリカ一の球団のどちらが強いのか、という世界の注目を集めることになれば、自然と緊張感も出てくるはずである。

 アメリカ国内でも、米スポーツ専門局ESPNの調査によると、8割近いアメリカ国民がグローバル・ワールドシリーズが開催となれば「見る」という回答をしている。
 日本一球団×アメリカ一球団の真剣試合は、興行としても充分に成り立つはずである。

 しかし、大リーグのコミッショナーからグローバル・ワールドシリーズの話が出たという経緯は、あまりにも唐突な感は否めない。
 以前、大リーグは、日本のプロ野球を相手にせず、来日して試合をする場合も、旅行気分で試合をやって帰るのが常だった。しかし、実際に日本人大リーガーがシーズンMVPやワールドシリーズMVPを獲得するようになり、日本代表チームがWBCを二連覇したことで、アメリカ側の見方もかなり変化してきたようである。
 そして、WBCにおいて大リーガーで構成するアメリカ代表チームが2大会連続で決勝に残れなかったという事実は、世界一を自負するアメリカの権威をも失墜させる結果だった。
 いくら、アメリカがワールドシリーズという冠名を乗せたところで、世界の客観的な目は、日本シリーズを制した球団が真の世界一じゃないか、と見る向きも出てくるからである。

 大リーグからグローバル・ワールドシリーズの提案があった理由については、セリグ・コミッショナーが任期中に自らの実績として名を残したいから、といった見方もあるが、私は、アメリカの権威失墜を挽回するために必要性が出てきた、と言った方がいいように感じている。
 日本プロ野球の加藤コミッショナーとしても、グローバル・ワールドシリーズ開催は、実現に賛同の意を示している。
 だが、実際には無条件では賛同できない様々な事情が今後噴出してくるはずである。

 試合日程、試合数、試合場所、使用球、報酬、故障の補償、投球数制限など、慎重に議論を重ねなければならない。それらの行方によっては、グローバル・ワールドシリーズが世界に誇れるシリーズにもなりえれば、選手のモチベーションが上がらない消化不良のシリーズにもなりえるし、開催不能にもなりえる。
 グローバル・ワールドシリーズを構想するのはいいが、内容を精査しないと、無残な失敗に終わる可能性も否めないのである。


 3.グローバル・ワールドシリーズのあるべき姿は

 現在のグローバル・ワールドシリーズ構想は、あくまで日本一球団とアメリカ一球団の日米決戦であり、世界一を決める戦いではない。プロ野球組織として全体的に上質で安定したプロ野球チームを揃えている国が少ない現状では、国の代表チームではない一球団で世界大会を行うのはどうしても時期尚早という見方になる。

 そうなると、WBC二連覇の日本プロ野球と世界一を自負する大リーグのチャンピオン球団が戦うシリーズで世界トップクラスの試合を世界に配信するというのは、野球の世界普及に向けても意義がある。
 とはいえ、高い質の試合を見せるためには、内容の精査が重要である。特に試合日程には気を配らねばならない。
 というのも、シーズン終了後は、日本シリーズを制した球団も、ワールドシリーズを制した球団も、一年間の激闘により疲労が蓄積しているからである。

 2005年から始まったアジアシリーズ(2009年は日韓クラブチャンピオンシップ)では、日本一のチームが出場することになっているが、いずれの球団もベストメンバーで試合に臨んでいるとは言い難い。
 疲労や故障によって出場を辞退したり、顔見せ程度の出場に留める選手も多く、外国人選手に至っては、日本シリーズ終了後に帰国してしまい、出場しない場合がほとんどである。結果こそ、日本一のチームが選手層の厚さから強さを見せつけてはいるが、他のアジアのチームに対してベストメンバーで挑まない親善試合の感覚がうかがえるのである。つまり、日本シリーズ後に開催する現状の日程では、どうしても日米野球と同様に、親善試合の位置付けから抜け出せないのである。
 アジアシリーズは、日本シリーズとは比較にならないほど注目度が低く、さらに観客動員にも苦しんで、2009年には日韓2カ国のみの日韓クラブチャンピオンシップへの縮小を余儀なくされている。

 それであるならば、グローバル・ワールドシリーズは、WBCと同様に3月くらいに開催するのが最善となる。
 当然、WBCと重なると日程的に難しいので、WBCを開催しない年にグローバルワールドシリーズを開催する形が望ましい。
 2009年の第2回WBC以降、WBCは4年毎に2013年、2017年と開催していく方針の為、グローバルワールドシリーズは、その合間を縫うように2011年、2015年と開催していけば、選手への負担も少なくて済む。
 そうなると、出場資格は2010年、2014年の日本一球団×アメリカ一球団ということになってしまうのだが、そこはその時点での最強球団同士でやらねば意味がないので、そうせざるを得ない。

 アジアシリーズが発展の道を歩んでいない今、グローバルワールドシリーズ構想をひとまず日米で実現させて、そこから発展させて参加国を増やして真の世界一の球団を決める大会へとつなげていけば、野球の世界普及と五輪復活も、必然的に達成できるはずである。









(20010年2月作成)

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