誤審を減らすために必要なこと
 〜2010年9月18日ヤクルト×中日戦の連続誤審〜


犬山 翔太
 
  1.誤審には泣き寝入りしかない現状

 試合に誤審は、つきものである。ただ、誰の目に見ても誤審と分かる判定を誰も覆せないのは、審判の権利濫用になる。
 それが優勝を左右する試合であれば、何らかの対処方法が必要ではないか。

 そう思わせる2度の誤審が続いたのは、2010年9月18日のヤクルト×中日戦である。
 中日は、前日時点で2位阪神と2.5ゲーム差で首位を走っていた。しかし、残り試合数が2位阪神より7試合、3位巨人より5試合少ない。
 つまり、中日は、2位に3.5ゲーム差以上つけておかないと優勝を自ら手繰り寄せることができない。そんなぎりぎりの状態で試合をしていたわけである。
 そんなときに誤審で試合を負けに追い込まれれば、これは、審判に多大な責任があると言わざるを得ないのではないか。


  2.1試合の2度の大誤審

 問題の9月18日の試合は、中日の1−0で迎えた3回表、無死2塁で中日の大島洋平が1塁前にバントをする。打球を処理したホワイトセルは、1塁へ山なりの送球。明らかに大島の足の方が打球より早く1塁ベースに達している。肉眼でも明らかだったが、VTRで見れば一目瞭然である。
 しかし、1塁塁審の石山審判の判定は、なぜかアウト。最初から1塁はアウトと決めつけていたかのような判定だった。

 さらに、不可解な誤審は、続く。1−1で迎えた5回裏のヤクルトの攻撃で、2死2・3塁から畠山和洋が放ったライト線への打球に藤井淳志がダイビングキャッチを試みるがグラブに当ててこぼす。
 その位置は、明らかにファールゾーンだったが、石山審判の判定はなぜかフェア。単なるファールが2点タイムリー3塁打に化けた。
 これには、さすがに落合監督が猛抗議に出て暴言退場、スタンドのファンからは「なんで嫌がらせするんだよ」という大声での抗議が響いた。

 結果的に中日は、3回表に追加点をとれず、5回裏の畠山の2点タイムリー3塁打が決勝点となって敗れる。誤審が試合の結果に直結してしまったのである。

 しかし、なぜこのような酷い審判の横暴判定が起こったのか。そこには、いくつもの要因がある。
 まず、シーズン終了間際になると、来季に向けた育成を兼ねて、若い審判を起用することが増える。それゆえ、経験の浅い若い審判が1塁塁審として優勝を左右する試合に起用されてしまった。

 また、審判には絶対的な権限がある。特に、昨今では大リーグでの絶大な審判の権威が模範とされる風潮にあって、一度下した判定がなかなか覆らず、抗議すれば簡単に退場にされてしまう。

 そして、ビデオ判定が本塁打の判定に限定されている。2010年から本拠地球場に限り、本塁打かファールか、スタンドインしたか否かの判定がようやくビデオ判定となるものの、それ以外の誤審に対しては泣き寝入りしかない。

 さらに、ヤクルトは、3位とゲーム差がある4位と言ってもまだクライマックスシリーズの可能性をかすかに残しているが、この試合を落とすとほぼ絶望的なところに追いつめられる。そして、試合場所は、ヤクルトの本拠地である神宮球場である。また、球界の盟主で、在京球団である巨人が優勝を争っており、巨人が優勝に近づくためには中日の負けが求められる。審判の私情が介入する要素が多分にあった。

 こういった複合要因から、通常では信じがたい誤審が2度も続いた。それでも、試合が無効になることはない。
 私は、2006年にWBC2次リーグのアメリカ戦で、アメリカ人審判ボブ・デービッドソンによる故意としか考えられない誤審のせいで敗戦に追い込まれた日本代表の姿が重なって見えた。


  3.審判の協議や全般のビデオ判定が必要 

 2006年のWBCでは、日本代表が誤審を糧に変えて世界一に輝いたため、誤審問題はその後、大きな進展はなかったが、オリンピック柔道での大誤審が情勢を変えたことがある。
 2000年、篠原信一は、シドニー五輪100kg超級決勝で誤審により金メダルを逃す。
 その試合は、フランスのドゥイエが内股をかけてきたところを篠原が内股すかしで返し、1本をとったかに見えた。しかし、なぜか判定は、ドゥイエの内股を有効としたのである。
 これにより、篠原は、銀メダルに終わるのだが、その後、国際柔道連盟がドゥイエの内股を有効とした判定が誤審だったことを認めた。そして、試合の結果こそ、覆らなかったものの、柔道にビデオ判定の導入を決めたのである。

 いかなる試合の誤審も、審判に悪意があったかどうかは、審判の心の内を誰も見ることができないので判別しようがない。試合で仮に片方の大ファンである審判がいたとして、そちらが優位になる判定をしても現状では対策がない。だからこそ、そういった状況を作らせないことが重要なのである。
 2010年9月18日のヤクルト×中日戦では、2度の誤審のとき、少なくとも判定した審判以外に2人の審判は、その判定状況を確認できる位置にいた。協議して正しい判定に覆すことも可能であり、それを行わなかったことが勝負の行方を分けた。

 また、ビデオ判定が本塁打に限定されていることも、こうした連続誤審を生む原因となった。極めて中途半端で局所的と言える本塁打に関わる判定だけにビデオ判定を限定しているのは、公平を欠く。片方のチームが本塁打からファールに判定が変わっても、もう一方のチームは3塁打がファールに変わらない、という不公平が生まれてしまうからである。
 そういった不公平を防ぐには、ライン上のフェア・ファールの判定、各塁でのアウト・セーフの判定、飛球の直接捕球・ワンバウンド捕球の判定にまでビデオ判定を取り入れるのが本来のあり方である。

 審判は、故意に勝負の行方を変えてしまうことができる。プロ野球界は、そのことを充分に認識した上で、新しい判定基準を定めていかなければならない。




(2010年9月作成)

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