国際化の中の荒療治  〜日本プロ野球人気回復へ外国人選手枠拡大を〜

山犬
 
  1.国内の人材難

 2004年11月に行われた大相撲九州場所は、モンゴル人横綱朝青龍の優勝で幕を閉じた。幕内力士33人の頂点に立ったわけである。年間5度の優勝は、大横綱千代の富士以来の快挙だという。
 若乃花・貴乃花兄弟最大のライバルとしてしのぎを削った曙や戦車のような馬力で一世を風靡した武蔵丸を筆頭に外国人力士の台頭は著しい。
 僕は、番付を見ていてあまりの外国人の多さに愕然とした。幕内力士33人中、実に11人が外国人なのである。割合で言えば3割以上で3人に1人は外国人という計算だ。もし、あと6人外国人が幕内に入ってくれば、日本人と外国人の数が逆転してしまう。
 日本人の価値観の多様化により、大相撲界は慢性的な人材難にあえいでいるという。
「君は体が大きいから将来は相撲取りだな」
 もはや、そんな時代ではなくなってきているのだろう。そうなるとスカウトは、外国人に目を向けざるをえない。かくして、日本の国技と呼ばれるスポーツの中にアメリカ人、モンゴル人、ロシア人、韓国人、グルジア人と国際化の波が押し寄せてきている。
 相撲がオリンピックの正式競技に採用される日もそう遠くないかもしれない。

 一方、プロ野球はどうだろうか。価値観の多様化による人材難なら多少はある。ON時代のようにプロスポーツと言えば、まずプロ野球だった時代は終わった。
 しかし、それ以上に日本のプロ野球は、自らが地盤沈下を起こし始めたのである。それは、鎖国政策からの脱却という国際化が招いた代償でもあった。
 日本のプロ野球が国際化を急激に進めて行ったのは、外国人選手の流入というより、日本人選手の流出だった。
 まず1995年に野茂英雄がメジャーリーグに挑戦する。それは、日本人が長年にわたってずっと抱き続けてきた夢の出来事だった。当時は、脳天をかち割られたような衝撃を誰もが受けたが、それからわずか十年足らずで夢は、ごく当たり前の現実となってしまった。すさまじい勢いで日本人選手がメジャーリーグへ移籍していく。そんな時代になったからである。
 野茂の場合は、「メジャーリーグに挑戦」と言われたが、今では単に「メジャーリーグに移籍」とさえ言われる。まるで日本国内のトレードのような扱いだ。人の感覚は時代と共に変わるものではあるが、ここまで急激に変わった例は少ないだろう。
 野茂英雄は、大リーグに挑戦した1年目にいきなり13勝6敗という好成績を残し、日本の一流選手が大リーグでもトップクラスの実力を持っていることを証明した。
 その事実は、それまで雲の上の存在だった大リーグを手の届く距離にまで降ろす役割を果たす。だが、それは逆に言えば、日本のプロ野球が危機に陥る予兆でもあった。

 先日、北野武がテレビのインタビューに、軽い調子で、それでいて真剣なまなざしでこう語った。
「イチローと松井は早く人間国宝にすべきだね。国民栄誉賞はって?日本のプロ野球を駄目にしたのはイチローと松井だからね。国民栄誉賞はあげられないんだ。だから人間国宝」
 日本人大リーガーとして活躍するイチロー、松井秀喜らは、アメリカで歴史に残るほどの大活躍を見せているが、活躍の場はあくまでアメリカであり、現在、日本のプロ野球の発展に大きく貢献しているとは言いがたい。
 むしろイチローが大リーグへ行ってからのオリックスの戦力低下と、松井が大リーグへ行ってからの巨人の人気低下は誰もが認めるところだ。
 日本のプロ野球は、日本人の一流選手が大リーグへ流出し始めたことによって、人気・実力の面で急激な地盤沈下を起こす。野球の最高峰である大リーグに日本国民が目を向けたことによって、野球人気自体は落ちていないが、日本のプロ野球人気は落ちてしまった。同じように日本人選手の実力自体は落ちていないが、一流選手が次々と大リーグへ流出した日本の球団は、戦力が大きく落ちてしまったのである。
 現在も大リーグ志向を持っている一流選手は多い。それでいて、日本人選手の海外流出は各球団2名までといった制限はない。日本人選手の大リーグ移籍に歯止めがかからなくなってしまう状況は、すぐ近くに迫っている。
 にもかかわらず、日本のプロ野球は、入ってくる外国人選手を厳しく制限している。出場選手登録は最大4名までなのである。
 日本人選手の流出を埋める戦力補強もままならないまま、日本球界は2004年、大きく揺れた。


  2.外国人選手枠

 日本に外国人選手枠ができたのは1951年11月24日のことである。野球協約に「支配下選手のうち日本人でない選手の数は3名を超えてはならない」という条文が加えられた。当時から外国人選手が大量に入ってきて日本のプロ野球で暴れ回ることへの危惧はあったようだ。
 1965年のオフにはドラフト制度が始まり、それと時期を同じくして外国人選手枠も2名に減らされる。日本人選手やファンが継続的に外国人排斥を訴えかけてきた結果である。1966年から支配下外国人選手2名の時代は1980年まで長く続く。
 「助っ人」という言葉がよく使われるようになるのも、2名という厳しく制限されたこの時代である。大砲として、またはエースとしてチームを優勝させるために一時的な手助けに来た外国人という意味合いが強いからにちがいない。
 確かに日本が外国人をもはや必要としない、という考えに至ったのは分からないでもない。1960年から1970年代にかけて日本は高度成長期であり、アメリカに追いつき追い越せという活力みなぎる時代だったからである。それは、日本人が自らの実力を過信してしまった時代でもあった。
 そんな中で日本の国民を魅了したのは川上哲治監督率いる巨人だった。1965年から1973年まで奇跡のV9を達成した巨人は、その間ずっと日本人のみで戦い抜いた(日本で教育を受けた在日外国人は日本人扱いとする)。日本は、アメリカからの助っ人外国人なしで、充分な戦力を整えて完璧なチームを作り上げられる。それを長きにわたって証明し続けたわけである。V9時代の巨人があれほどの人気をいまだに保っている理由はそこにうかがえる。
 
 しかし、長嶋茂雄が引退し、巨人のV9時代が終わるとドラフト制度の好影響による戦力の均衡が表面化する。そうなると、各球団とも他のチームと大きな差をつけるには何が必要か。それを考えて行くと、優良な「助っ人」外国人を補強することが最も手っ取り早いことに気づかざるをえない。
 1970年代後半からはどの球団も必ず外国人選手を置くようになる。高度経済成長から国際化への時代の変遷とともに1981年には外国人の支配下選手登録が2人制から3人制に戻る。だが、出場登録選手は依然として2人だった。そういう旧態依然とした閉鎖性が今度は外国や現代日本人の格好の標的となった。
 そして、1994年には出場登録選手も2人制から3人制に緩和される。「規制緩和」という言葉の台頭とともに1996年には支配下登録選手の人数制限が撤廃となり、球団は外国人選手を何人でも好きなだけ保有できるようになった。
 1997年からはFA権を獲得すれば外国人選手枠から外れる制度もでき、1998年からは出場選手登録が4人までに緩和される。そして、出場選手登録4人のうち投手、野手それぞれ2名までだったのが、2002年にはそれぞれ3人まで、とさらに緩和される。
 そして、広島は、2000年1年だけで、のべ9人の外国人選手を支配下登録した。
 

  3.日本人選手流出の制限は?外国人選手枠の撤廃は?
 
 2004年、近鉄とオリックスは、合併を発表した。その後、一時は1リーグ制の方向に傾き、球団減の是非をめぐって史上初のストライキにまで発展する。
 結局、楽天の新規参入により、セパ12球団での2リーグ制は維持する結果になったが、このような騒動の元は、と言えば、近鉄やオリックスの選手流出に行き着く。この2球団は、1990年代に入って選手がセリーグへの流出したり、大リーグへ流出したりして弱体化の道をたどった。
 2004年には近鉄が5位、オリックスが6位。もはや合併しなければ優勝は到底狙えない。そんなありさまである。
 2004年と同様、今後も12球団でやることが決まった今、弱体化してしまった日本野球の現状に何らかの対策を施さなければ、魅力はよみがえってこないだろう。

 そうなると、日本人選手流出の制限と外国人選手枠の撤廃がまず挙がってくる。
 10年前までは出て行くはずがなかった日本人選手の流出は、現在とどまることを知らない。今後も様々な選手がアメリカに渡るであろうが、僕は、現在のメジャー志向ブームが遠くない未来に終わりが来るのではないか、と予想している。
 確かにメジャーリーグは、打者のパワー、投手のスピードにおいては高いレベルがある。しかし、それ以外に関してはさほどレベルの違いはなく、守備や走塁においては日本の方がレベルが高いのでは、と指摘する声もある。
 メジャーリーグが憧れの的でなくなる時代が訪れる可能性は高いのである。さらに、外国でプレーすることに対してのリスクが今以上にクローズアップされてくるだろう。現在、イチロー、松井のサクセスストーリーでもちきりだが、メジャーリーグで成功するのは容易ではない。
 たとえば、尾崎将司は、全盛期、日本では圧倒的な強さを誇ったが、外国のメジャーな試合ではどうしても勝てなかった。生活環境、練習環境、時差ぼけなどにことごとく悩まされたからだ。
 現在、野茂やイチロー、松井秀喜らは日本での活躍にほぼ匹敵する成績を残しているが、日本では素晴らしい成績を残したのにアメリカではさっぱり、という選手も続々と出てくるはずである。
 日本に比べ、食べ物はハンバーガー中心、移動時間は長く、試合数も多い。知人が少なく、言葉も不自由だ。大リーグで活躍するには、日本でやっている以上に強靭な体力と精神力が必要になってくるからである。
 だから、日本人選手が今後も流出はし続けるであろうが、活躍できる選手は限られてくる。
 新庄剛志のように「メジャーリーグなんて、つまんなかった」と言って、日本へ帰ってくる選手が後を絶たない時代も近いだろう。
 僕は、そうした観点から日本人選手の流出については制限の必要を感じない。

 だが、逆に外国人選手枠の撤廃は、必要と考えている。
「そんなことをしたら、レギュラーの大半が外国人選手になってしまう」
 そう心配する人も多いだろう。それが以前からずっと外国人選手枠を厳しく統制してきた理由でもあるのだから。
 だが、その心配は、おそらく杞憂だ。
 日本は排他性の強い国である。もし、同じくらいの実力を持った外国人選手と日本人選手がいたら、間違いなく日本人選手を起用する。少しくらい外国人選手の方が高い実力を持っていてもおそらく日本人選手を起用するだろう。
 投手に変化球が多く、バッターのカットする技術が高い日本野球に順応してうまくやっていける外国人選手はごく少数である。1年目に活躍しても2年目には相手に研究されてさっぱりという外国人選手も多い。
 来日する外国人選手の大半がほとんど活躍できずに1年か2年で日本を去っていることを考えれば、チームが外国人選手に占拠されるような事態は起き得ない。
 パワーを持った外国人大砲と快速球を投げる外国人投手ばかりを集めて優勝を狙うような球団が仮に現れたとしても、まず優勝はできない。

 つまり、日本は、外国人選手枠を大きく広げた方がいい。現状の日本プロ野球を見れば、外国人選手が入り込む余地が充分にあるのは明白で、彼らの流入があれば、日本野球のレベルが向上し、競争力も高まって活性化の道を歩み始めるにちがいない。
 思い切って出場登録選手を10人くらいに増やしてもいい。日本の野球人気とレベルを回復させるためには、それくらいの荒療治は必要と感じているのは僕だけじゃないだろうから。



2004年12月作成

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