2017年7月のコラム

犬山 翔太
 
 @ビシエドのアメリカ市民権騒動と今後

 2017年07月16日

 ビシエドが何とか後半戦から復帰できそうだ。一時は、今季絶望になったりしないだろうかとさえ、心配した。
 真面目な選手なので、このまま中日を退団するようなことはないと信じていたが、今後、また何度も渡米する必要が出てくるかもしれない。
 どこまでトランプ政権の影響を受けているのかは分からないが、ここのところアメリカの外国人に対する姿勢が強硬になっているように感じられる。

 ビシエドの渡米については、中日球団も、最初は簡単に考えていた。ビシエドを登録抹消せず、数日で復帰できると踏んでいたのだ。
 しかし、ビシエドは、6月16日に渡米したものの、何日経ってもアメリカの市民権を取得できる目途が立たず、結果的に1か月以上の離脱を強いられた。

 中日は、せっかく4位に上がりながら、ビシエド不在の影響が徐々に出て、5位に転落して前半戦を終えた。
 中日ファンの立場から見れば、シーズンオフだけで手続きを完遂してほしかったところではあるが、アメリカは、野球選手の事情など考慮してくれないようだ。キューバ出身で、昨年から日本で働くビシエドにとって、手続きは容易なものではないのだろう。ビシエドにとっては、人生がかかっているので、野球どころではないというのも理解できる。

 外国人選手は、将来の人生や家族を最優先する。これは、目の前の仕事を常に最優先することを強いられる日本人の価値観とは大きく異なる。
 これまでにも、外国人選手は、妻の出産や家族の看病などで長期間、試合を離脱することがあった。
 ときに悲劇的な結果を招くこともあって、真っ先に思い出されるのがランディ・バースの解雇である。1988年のシーズン、難病にかかった子供の手術をするために帰国したバースは、医療費の問題もあって、阪神から一方的に解雇されてしまった。
 バースと言えば、外国人として唯一の2年連続三冠王を獲得した史上最高の外国人選手である。
 にもかかわらず、球団は、あくまで自分勝手な外国人選手として扱ったのである。

 ビシエドについては、中日との間でコミュニケーションがとれていたようで、球団との間にトラブルもなく、後半戦からすんなり復帰となった。
 幸い、優勝争いをしていないので、ペナントレースには大きな影響はなかったが、これが優勝争いの渦中であれば、大きな問題となっていただろう。
 今後、同様のことが起こらぬよう、球団も、スケジュール管理とサポートを検討し、対策を講じてほしいものである。


 A中日の10点差逆転負けを検証する

 2017年07月29日

 2017年7月26日、中日は、神宮でのヤクルト戦で10点差を逆転される敗戦を喫した。
 最大得点差逆転負けのプロ野球タイ記録である。
 11点差以上からの逆転はまだないのね。10点差の逆転は、プロ野球史上4度も起きているのね。と、いろいろ思いを巡らしてみるが、2桁得点は珍しくないから10点差の逆転も決してありえないことではない。
 ただ、実際にリアルタイムに起こると、さすがに驚きを隠せない。

 私は、10-0になった時点でネット速報を逐次チェックするのはやめていた。試合が終わった頃を見計らってネット速報でスコアを見たら10-10になっていたので、サイト側の更新ミスかと思ったほどだ。

 7回表を終わった時点で10-0。中日ファンの誰もがここからまさか負けるとは思わなかっただろう。
 7回裏、ヤクルトは、今シーズン1本も本塁打を放っていなかった代打中村悠平が2ラン本塁打を放つ。先発大野に疲れが出る頃ではあるが、出会い頭としか言いようがない一発だ。

 中日は、10-2の8回裏も、大野を続投させる。大差がついており、リリーフ陣を休ませるための措置だ。これも、プロ野球界ではよく見られるセオリーである。仮に5-2なら続投はなかっただろう。

 そして、中日は、主軸選手のビシエドをベンチに下げて守備固めをした。首脳陣も、「追いつかれることはない」と踏んでいたのだ。これも、セオリーどおりではある。8点差あれば、主軸を休ませて控え選手を試すのが普通の考え方だ。

 結果的に最大の得点源を下げたことがが大きな痛手となった。ビシエドと並んで最大の得点源であるゲレーロも5回表に死球で交代している。
 この時点で中日打線は、飛車角抜きとなった。

 8回裏、大野は、想定を超える崩れ方をした。ヒットと本塁打、四球で1アウトも取れずに降板したのだ。
 スコアは10-4。
 ここで中日は、福谷を投入する。現在の福谷は、大差で勝っている場面か、ビハインドの場面で使われる投手だ。首脳陣の見込みは、「6点差あれば、福谷でしのげる」。まあ、セオリーどおりである。
 これが7−4であれば、状況が異なる。岩瀬、伊藤、又吉のいずれかを送り込んでいたはずだ。ホールドがつくリードかどうかは、投手起用にも大きな影響がある。

 結果的に福谷は、火に油を注いだ。2アウトを取る間に2安打1四球を与えて10-6に詰め寄られたのだ。
 ここでようやく岩瀬を投入。おそらく7回表の10-0の時点では登板はないと考えていただろう。
 急遽マウンドに上がることになった岩瀬は、連続タイムリーを浴びて10-8に詰め寄られる。

 そして、ここで交代した又吉もまた、四球を出し、タイムリー安打を浴びて10-10に追いつかれたのである。

 1イニング3回の投手交代をして、飛車角抜きの打線となった中日が負けるのは、もはや時間の問題であった。勝つためには伊藤が2回、田島が2回を抑えきって、飛車角抜きの打線で何とか得点を挙げなければならないからだ。
 10回裏に伊藤がサヨナラ本塁打を浴びて、10-0からの逆転負けが成立した。

 多くの選手が絡む野球において、奇跡は、一つの要素のみで偶然起きるわけではない。様々な伏線が複雑に重なり合って、それが大きな流れとなり、起きるのだ。
 そういう意味で、この試合は、記憶にも記録にも残っていくはずである。
 中日は、おそらく1つか2つ、打つ手を変えていれば、勝っていただろう。今後、2度とこういった逆転負けを喫しないような危機管理をしてほしいものである。






(2017年9月作成)

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