2017年6月のコラム

犬山 翔太
 
 @荒木の取捨選択する力が成し遂げた2000本安打

2017年06月04日

 荒木雅博が通算2000本安打を達成した。
 地元で地上波のテレビ中継があるデーゲームの土曜日に、止めたバットに当たった球が2000本安打目になるというのも、いずれ伝説になるだろう。

 荒木が全盛期の中日は常勝チームだった。過去のプロ野球で、私がもう1度見たいチームを1つ挙げるとしたら、2006年の中日を選ぶ。

1.荒木(二)
2.井端(遊)
3.福留(右)
4.ウッズ(一)
5.森野(三)
6.アレックス(中)
7.井上(左)
8.谷繁(捕)
9.川上(投)

 すべての選手が全盛期を迎えていて、投走攻守すべての面で理想的なチームだった。

 ただ、この豪華メンバーの中で打撃の期待値が最も低かったのが荒木である。打てば儲けものという感じで見ていた。
 だから、まさか通算2000本安打まで到達するとは思わなかった。

 8年間監督を務めた落合も、スポニチに寄せた手記でこう述べている。
『守備はある程度、答えに近づける。打撃には答えがない。荒木には「オレは答えを求めて守備をやる」というのがあった。それが偉い』(2017.6.4 スポニチ)

 長所を徹底的に伸ばして、誰も真似できない高みに到達する。
 動きが鈍い外国人一塁手の守備範囲の大部分をカバーする。
 投手の一塁への悪送球に即座に追いついて進塁を防ぐ。
 1人でアウトにできない二遊間の打球は、井端を利用して2人がかりでアウトにする。
 言葉はなくとも、井端との阿吽の呼吸で守備位置を自在に変えていく。
 荒木の守備は、本当に規格外と言っても過言ではなかった。

 守備だけではない。荒木には、他の人には決して真似できない走塁もある。ベースランニングや盗塁の成功率の高さもそうだが、語り継がれるのは本塁へのヘッドスライディングだろう。
 今ではコリジョンルールができて、走塁は随分楽になったが、以前は、捕手が本塁前で壁のようにブロックしていたから、クロスプレーで本塁を陥れるのは相当な技術が必要だった。

 荒木は、リーグ優勝を争っていてシーズン終盤になると、本塁へのヘッドスライディングを解禁し、怪我しないようにバッティンググローブを握りしめて、絶妙に捕手の脇に回り込んでホームインする神業ヘッドスライディングを見せていた。
 2011年に奇跡の逆転優勝を成し遂げることができたのは、2試合に渡る荒木のヘッドスライディングホームインが大きかった。

 結局、落合が監督の間、常に規定打席に到達したのは荒木1人だった。打てなくても起用すると落合が決めていたほどの守備力、走塁力ではあったが、打撃も、落合が監督になってから一気に進化した。

 内野手の頭上をライナーで超える打撃が上手くなり、特に右打ちの技術は井端にも劣らぬほどになった。それは、ときにポップフライを量産してしまうこともあったが、荒木は、一貫して単打を狙い続ける打撃に徹したのである。
 荒木は、恵まれた体格と身体能力を持ちながら、長打を狙う打撃を目指さなかった。

 中日スポーツにかつての先輩野手である立浪和義が寄せた手記に荒木の真骨頂が表現されている。
『自分に合うものだけを取捨選択して取り入れる能力に長けていた』(2017.6.4 中日スポーツ)

 どの分野もそうだが、いろんな人々が「ああした方がいい。こうした方がいい」とアドバイスをくれる。ワンマン気質の人なら「こうしなければいけない」「こうしろ」という命令口調で話をしてくるものだ。

 しかし、それをすべて真に受けて実行し続けていては体が持たないし、辻褄が合わない言動につながっていく。
 自分にとって本当にプラスになるかどうか、自分にその方法が最も向いているのかを判断して取捨選択し、自らの価値を高めていくことが大切だ。

 口で言うのは簡単だが、実践するのは限りなく難しい。
 それをプロ野球という厳しい世界で長年やってのけた荒木は、やはり偉大な選手である。



 A継投によるノーヒットノーラン達成に思う

2017年06月18日

 巨人が6月14日のソフトバンク戦で山口俊、マシソン、カミネロの3人の継投によるノーヒットノーランを達成した。
 継投によるノーヒットノーランは、セリーグでは初だという。

 投手の事情、チームの事情が生み出した。
 記録を狙わせるか、チームの勝利を優先させるか。これは、エンターテイメントの興行という側面と、勝負事という競技の側面のどちらを優先させるかという永遠のテーマである。

 巨人は、チームの勝利を優先させたわけである。
 1人でのノーヒットノーランを狙うには、あまりにもタイミングが悪かった。

 何せ、巨人は、5月25日から6月8日まで、まさかの13連敗を喫していた。
 50%の確率で勝つことができる野球で、巨人はプロ野球史上最も勝つ確率が高い球団であるにもかかわらず、13回連続負けてしまった。単純に計算しても、0.01%という確率が今年出てしまったわけである。
 13連敗後も6月13日まで連勝はなかった。6月13日に勝っただけに、6月14日は久しぶりの連勝を目指して、何としても勝ちたい試合であった。

 さらに、先発投手の山口俊が故障明けであったことも交代せざるをえなかった一因である。
 山口は、今年、FAで加入したにも関わらず、右肩の違和感によって出遅れ、この日が巨人での1軍初登板となった。
 しかも、4四球を出して6回までに102球を投じていた。

 おそらく、当初から100球を目途に交代と決めていたのだろう。
 交代した2投手の投球数を加えると154球になるので、さすがに9回まで投げ切ることは困難という見方もできる。

 2007年日本シリーズ第5戦で中日が山井大介から岩瀬仁紀にリレーした完全試合と比べても、交代しやすい状況である。また、交代したとしても、批判を受けにくい状況であった。

 10年くらい前から、セットアッパー2人とクローザー1人の計3人で7回から9回の3イニングを任せるというスタイルが主流となり、阪神のJFKをはじめとして3人で勝利の方程式を作ろうとする球団が増えた。

 今後は、個人記録よりも、チームの勝利を優先させて、6回か7回まで無安打に抑えていたとしても、球数が100球を超えていたら交代というパターンが増えていくだろう。
 私が子供の頃は、6回や7回まで0点に抑えていながら、交代するという場面を見たこともなかったのに、現在では日常茶飯事である。

 私個人としては、何球投げていたとしても、1安打打たれるまでは交代しないでほしいが、試合の状況、投手生命を考えれば、無理させて投げさせることに同意はできない。

 1人の投手でのノーヒットノーランが減り、複数投手でのノーヒットノーランが増えていくのが時代の流れなのかもしれない。





(2017年6月作成)

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