2016年9月のコラム

犬山 翔太
 
 @大谷翔平をどう起用するか

2016年09月03日

 シーズン当初は、セリーグが最後まで団子状態でもつれて、パリーグはソフトバンクが独走するものと思っていた。
 だが、実際にはセリーグが広島の独走となり、パリーグがソフトバンクと日本ハムの激しい首位争いでもつれている。
 野球はこれだから面白い。先のことは分からないものである。

 現在、注目したいのは、日本ハムの大谷翔平を今シーズン最終盤にどのように起用するかである。
 年々成長を遂げる大谷の進化は、すさまじく、特に今年の打撃は、もはや開花したと言っても過言ではない。

 パリーグ最高の成績を残す投手でありながら、パリーグ最高の成績を残す打者でもある、という信じがたい状況が起きているのだ。

 実際、高校時代からの実績を考えれば、不思議ではない。160キロを出せる投手でありながら、高校通算56本塁打。投手としても打者としても超一流の素質を見せつけてプロに入り、順調に投手としても打者としても超一流になった。

 今後は、高校野球のエースで四番という選手が二刀流でプロに入ってくることが増えるだろうが、大谷以上の成績を残す選手は、当分現れることはないだろう。

 今シーズンの日本ハムは、6月から7月にかけて15連勝という信じがたい快進撃を見せたが、この連勝も大谷なくしては語ることができない。
 日本ハムがリーグ優勝を果たすためには、大谷をどのように起用し、どのような結果を残すかにかかっている。

 理想は、火曜日には指名打者として先発登板して、打者としても全試合に出場することであるが、登板2日前の日曜日や登板後の水曜日に打者として出場して、疲労によるスランプや故障を誘発しないか危惧がある。
 それを未然に防止るするには、日曜日や水曜日は、出場するとしても、ここぞの場面での代打のみに留めるといった対策が必要だろう。

 投手としてはリリーフ起用という案も出ているようだが、リリーフ投手として毎日準備するのは、肩や肘、精神的に大きな負担となるため、大谷の将来を考慮するなら、やめてもらいたいものである。


 A困難な連覇を広島には目指してほしい

2016年09月10日

 プロ野球が盛り上がるのは、シーズン前にはどこが優勝するのか全く予想がつかず、調子のいい選手が揃ったチームが優勝するシーズンだ。
 セリーグのここ2年間は、極めて面白いシーズンだったと言えるだろう。

 2015年は、2014年に最下位だったヤクルトが優勝してしまったし、2016年は、2015年に4位だった広島が優勝しようとしている。
 特に広島は、2016年9月9日現在で、2位に14ゲーム差をつける圧勝である。エース前田健太が抜けて苦戦するという見方も多かっただけに、仮に前田が残っていたら記録的な勝ちっぷりになっていたかもしれない。

 それだけに、メディアでは、今後何年も連覇するのではないかという論調が多くなってきているが、私は、そう簡単なものではないと考えている。
 確かに今年の広島は、チーム打率1位、チーム本塁打数1位、盗塁数1位、防御率1位と他チームを圧倒している。

 これだけの成績を残せたのは、ほぼすべての選手が今年好調であったことが大きい。
 投手では野村祐輔、ジョンソン、黒田博樹がローテーションでしっかり試合を作り、ヘーゲンズ、ジャクソン、中崎翔太らのリリーフ陣も安定していた。
 野手では鈴木誠也が急成長を遂げ、菊池涼介、丸佳浩、新井貴浩、エルドレッド、田中広輔らが期待どおりの活躍を見せた。

 ただ、この成績を来年も維持することはかなり困難である。若い選手が多いだけに、大きく成績が落ち込むことは考えにくいが、今年以上の成績を残す選手はかなり少ないはずである。

 昨年リーグ優勝したヤクルトも、昨年をしのぐ成績で目立つ選手と言えば、昨年故障していたバレンティンくらいである。しかも、大抵の選手は、成績を落としている。

 今年の広島は、投打にバランスがとれた理想的なチームではあるが、来年になれば、状況はまた大きく変わる。故障者が出れば、一気にバランスが崩れて勝てなくなることもある。日本シリーズまで戦えば、翌年に少なからず反動が来る。

 広島は、1979年〜1980年に連覇を達成しているが、長い歴史の中で広島の連覇はこの1回だけである。
 セリーグは、巨人がよく連覇をするので、簡単に連覇できそうな錯覚があるが、巨人以外のチームの3連覇以上はこれまで例がない。
 戦力が揃った広島には、ぜひ2連覇、3連覇を目指してほしいものである。


 B黒田と新井と広島球団に感謝

2016年09月11日

 9月10日の巨人×広島戦は、久しぶりに感動的な試合であった。
 黒田博樹が先発で、勝つか引き分けで25年ぶりのリーグ優勝が決まるというドラマのようなお膳立てがあれば、プロ野球ファンなら誰しも興味をひかれるものだ。

 黒田は、2006年のオフに、ファンの想いをくんで移籍を1年延期したことから、一躍国民的な人気選手となった。
 所属球団のファン以外に愛される選手は少ない。多くのプロ野球ファンは、ひいきの球団の選手を愛しているがゆえに、他球団の選手は敵チームの選手でしかないからだ。

 しかし、例外的に他球団のファンからも愛される選手もいる。たとえば、長嶋茂雄や王貞治は、アンチ巨人ファンにも人気があるし、松井秀喜も、他球団ファンにも愛されている。野茂英雄やイチロー、田中将大も、所属してきた球団以外のファンが多い。

 黒田博樹と新井貴浩も、彼らと同様に他球団のファンからも幅広く愛されている選手である。
 もちろん、私も、この2人の選手のファンだ。

 それでも、黒田と新井は、2014年オフに広島復帰を決断したとき、プロ野球ファンの反応は正反対と言っていいほど、両極に分かれた。

 それは、2人の想いとは裏腹に、2人が歩んできた道が大きく異なるせいだろう。
 黒田は、常々国内他球団への移籍は否定しており、2007年オフに大リーグ挑戦を決めたとき、復帰するときは広島と断言していた。そして、2014年オフに大リーグの年俸21億円を断って、年俸4億円の広島に復帰したとき、黒田のファン想いの漢気にすべてのプロ野球ファンが心をつかまれたのである。

 しかし、新井の場合は違った。2007年、FAで国内のライバル球団である阪神に移籍したからだ。理由を説明せずに敵である人気球団へ移籍したせいで、マスコミやプロ野球ファンから高年俸につられて移籍した裏切者呼ばわりされ、特に広島ファンの反発に遭った。実際には、阪神に移籍したかったわけではなく、広島を愛しながらも、兄貴分として慕う金本知憲とどうしても一緒に野球をしたかっただけであったのだが、マスコミが作った裏切者扱いは、広島に復帰してきたときもアレルギー反応のように起こった。阪神の7000万円の年俸を断って2000万円の広島に復帰したにも関わらず……。

 この2年間は、2人にとって、野球人生を賭けた大勝負であったように思う。黒田は、現役トップクラスの大リーガーとして凱旋したがゆえに、成績を残せなければ期待外れのレッテルを貼られる。新井もまた、活躍できなければ全盛期を敵球団に捧げた裏切者のレッテルを剥がせない。

 だからこそ、2016年のリーグ優勝は、2人にとって野球人生を賭けて勝ち取った栄冠と言っても過言ではない。
 黒田と新井がここまで多くのプロ野球ファンから愛されるのは、高い実力だけでなく、愚直なまでの誠実さと勤勉さも兼ね備えたファン想いの人情味あふれる選手だからだ。
 そんな2人のプロ野球選手を育てた広島は、唯一の市民球団であるとともに、日本プロ野球界において日本人すべてに愛される特別な球団である。


 C大島、平田の動向によって中日打線は大きく変わる

2016年09月17日 15:21

 セリーグは、広島の優勝が決まり、早くもFAが話題になっている。
 特に中日は、大島洋平と平田良介が権利を取得する。
 この2人のFA権取得が話題になるのは、大きな理由がある。これまでの契約更改で保留した経緯のせいだ。

 大島は、打率.318、28盗塁を残した2014年のオフに5625万円から7400万円へのアップを保留し、一時は世間で物議を醸すほどの騒動になった。また、平田は、2014年、2015年のオフと2年連続で保留している。そのため、2人がFA権を取得すれば、移籍するのではないかとマスコミが騒ぎ立てているのだ。

 中日は、2013年にBクラスに転落して以降、4年連続でBクラスから抜け出せないでいる。その間、大島と平田は、レギュラーとして打線を支えてきたが、未だ得点力不足に悩まされている。

 2016年も、大砲のビシエドを獲得したものの、好不調の波が激しく、シーズン終盤には故障するなど、なかなか得点源として機能しなかった。
 大島は、9月16日時点で打率.297、168安打を記録しているが、安打製造機の大島が出塁しても残塁させてしまうことが多く、大島の前に出塁が少ないこともあって打点も少ない。大島の類まれな打撃センスをチームが生かしきれていないのが実情である。

 平田も、2016年は好不調の波が激しく、本塁打こそ14本放っているものの、打率は.248と低く、クリーンアップを任せられる存在として満足できる成績ではない。

 2人とも、守備では文句のつけようのないほど素晴らしい働きをしており、投手を中心とした守りの野球を目指す中日にとっては不動のレギュラーなのだが、打線の中で彼らが生かしきれない現状はもどかしい。

 私としては、これまで大きな貢献をしてきた大島と平田には残留してほしい気持ちはあるが、現在の低迷を大きく変えるには、大幅な選手の入れ替えという荒療治があっても仕方ない。

 大島と平田が残留するのであれば、この2人を生かせる打撃陣にする必要があるし、残留しないのであれば、1からチーム構成を作り直す必要がある。
 いずれにせよ、現在の繋がらない打線、効率の悪い打線から脱却するために、大幅な組み換えを行い、2006年のような完璧な打線を復活させてほしいものである。


 Dなぜまたもビデオ判定の末に誤審が起きたのか

投稿日時:2016年09月18日 17:59

 昨年のデジャブのような光景がまた起きた。
 9月17日の広島×中日戦での誤審である。8回裏に広島の丸佳浩が放ったレフトへの大飛球は、フェンス越えようとしたところで中日の外野手工藤隆人が追いつき、グラブに収めるかに見えた。
 だが、外野席にいた観客がグラブを差し出し、グラブが交錯した末に打球は、観客のグラブに収まったのだった。

 通常なら守備妨害となるところではあるが、審判員のビデオ検証結果はなぜか本塁打。マツダスタジアムで、しかも、丸佳浩の自身初となる20号本塁打がかかっていたとあって、広島ひいきの判定、つまり誤審が起きた。

 この光景を見ると、どうしても2015年9月12日に起きた誤審を思い出してしまう。
 私が1年前に書いたブログでは下記のように記している。

--------------------
 あってはならない誤審が起きた。
 9月12日の阪神×広島戦での誤審についてである。12回表に田中広輔の放った打球はセンターのフェンスを越えてスタンドに入っていたが、跳ね返ってグラウンドに戻ってきたため、インプレーで三塁打とされてしまった。
 2010年から本塁打について、ビデオ判定が導入されているため、今回も当然ビデオ判定が行われたのだが、それにもかかわらず誤審となったのだ。
(中略)
 現在は、テレビをはじめとするメディアがしっかりと映像や画像を撮っているから、真実はすぐに判明する。
 問題は、審判員たちがビデオ判定に持ち込んだものの、誤審をしてしまっていることである。
 甲子園球場だから阪神有利な判定で仕方ない、というのは、ビデオ判定をしなければ成り立つが、ビデオ判定をしながら誤審をしてしまうというのは、あってはならないことである。
--------------------

 今回も、いろんな角度から写真や映像が提供されていて、それを見れば一目瞭然で、ファンがグラブを出してキャッチしていなければ、中日の工藤によるファインプレーの外野フライであったことが判明する。

 幸い、リーグ優勝が決まった後であり、中日のCS進出も絶望となっており、試合も中日が勝利したことから大きな問題にはなっていないが、これが優勝争いの渦中やCS進出争いの渦中であれば、大きな騒動になるはずだ。仮に中日が敗れていたとしたら、まだ中日も順位は確定していないだけに、後々問題となっていた可能性もある。

 2年連続でビデオ判定の末、誤審ということになれば、もはやビデオに頼らない構造を目指すべきである。
 マツダスタジアムは、フェンスが低く、外野手が本塁打の打球をジャンプして捕球できるのだが、観客もフェンス際で体をグラウンドに乗り出して捕球ができるという構造になっている。

 そうなると、今後も、またビデオ判定の結果、誤審になる可能性がずっと残ってしまう。
 そうならないようにするには、観客にフェンス際2メートル程度は立ち入りできないようにするという方策が必要である。
 もしくは、フェンスをもっと高くして、観客のグラブと選手のグラブが接触しないように工夫すべきである。

 この2年間でビデオ判定があまり信用できない代物であることが分かってきた。ビデオ判定に頼るのではなく、ビデオ判定が必要ない構造に変えることが誤審を防ぐ近道である。


 E2016年シーズンMVPの話題に対する違和感

2016年09月25日

 セリーグは、早々とリーグ優勝が決まり、残る楽しみは個人タイトルとシーズンMVPである。個人タイトルの行方も、概ね固まってきて、残るはシーズンMVPは誰になるかだ。

 昨年のセリーグは分かりやすかった。山田哲人がトリプルスリーを余裕ある成績でクリアし、本塁打王と盗塁王に輝くとともにリーグ優勝の原動力にもなった。

 今年も山田は、トリプルスリーを確実にしているが、チームはAクラス入りを逃し、タイトルも盗塁王のみに終わる可能性が高くなった。2年連続トリプルスリーは史上初の快挙であるとはいえ、今年のシーズンMVP受賞は難しそうだ。

 筒香嘉智が現在43本塁打、108打点で2冠王に向けて好調を維持しており、打率も3割を大きく超えており、三冠王を獲得してもおかしくないほどの成績である。DeNAが仮にリーグ優勝していたら、筒香がシーズンMVPで文句が出ないだろう。

 しかし、今年のリーグ優勝は広島である。シーズンMVPは、リーグ優勝にどれだけ貢献したかという基準に重点を置かれることが多く、リーグ優勝の立役者に票が集まる傾向がある。
 そうなると、100打点以上を叩き出して広島打線の中核を担った新井貴浩が候補に挙がってくる。さらには、攻守に渡るキーマンとして最多安打のタイトルを獲得しそうな菊池涼介や「神ってる」と評されるほど驚異的な活躍を見せた鈴木誠也も候補である。

 広島は、投手陣も候補がいる。まずはシーズン16勝を挙げて最多勝を確実にした野村祐輔である。負けも3敗だけという圧倒的な勝率であり、リーグ優勝に最も貢献した投手とも言える。さらに、ジョンソンは、防御率が野村よりも良く、15勝7敗と言う成績を残しており、打線との関係で負け数は多いものの貢献度は野村と双璧である。
 防御率1点台前半の守護神中崎翔太も、リリーフとしては抜群の貢献度と言うことができる。

 シーズンMVPは、記者投票で決まるだけに、開票するまで分からない。投手か野手かも分からないし、広島から選出されるか他球団から選出されるかも分からない。

 私としては、投手と野手は分けて選出し、優勝チームからの選出とリーグ全体からの選出を分けて最大4人選出するのがいいと考えている。
 優勝チームとリーグ全体から選出した選手が重なる場合は、最小2人になってしまうが、それは年毎に選出人数が違ってもいいだろう。
 今年は、筒香の打撃成績があまりにも素晴らしかっただけに、筒香がシーズンMVPの話題に上がってこないことに少し違和感を覚えるのである。







(2016年9月作成)

Copyright (C) 2001- Yamainu Net 》 伝説のプレーヤー All Rights Reserved.


inserted by FC2 system