2016年7月のコラム

犬山 翔太
 
 @山田哲人は長年活躍できる日本人大リーガーになれる存在

2016年07月02日

 山田哲人の成長ぶりには常々驚かされる。

 実を言うと、2013年に田中浩康に代わって二塁手のレギュラーとして使われ始めたときは、どこまで活躍できるかかなり疑問を持っていた。
 田中は、二塁手としては日本を代表する名手で、堅実なうえに刺殺や補殺も多かった。さらにしぶといバッティングと犠打の巧さも併せ持ち、二塁手として申し分のない働きをしていた。

 そんな田中が少し打撃不振に陥ったからといって、山田をレギュラーとして使うのは時期尚早なのではないかと思っていた。試しにレギュラーとして使ってみるが、しばらくしたら田中がレギュラーとして戻るのだろうと。

 しかし、私の想定は、見事なまでに覆された。2014年には193安打を放って最多安打を獲得すると、2015年には打率.329、38本塁打、34盗塁でトリプルスリーと本塁打王、盗塁王を獲得してしまった。
 もはや、二塁手としては、誰も手の届かない高みに登ってしまった。打者としても、並べて語られるのはソフトバンクの柳田くらいとなってしまい、今後の成長次第では、三冠王と盗塁王を同時に獲得するような規格外の成績を残してしまう可能性がある。

 大リーグでは、イチローと松井秀喜が大リーグで長年レギュラーとして輝かしい実績を残してくれたが、2人とも外野手である。
 これまで内野手として大リーグで長年レギュラーで活躍し続けた日本人選手はいない。
 井口資仁や松井稼頭央、岩村明憲は、活躍を見せた方ではあるが、いずれも短期間のレギュラーに終わってしまった。

 山田にはぜひ大リーグに行って、二塁手として長年レギュラーで活躍してもらいたい。
 山田なら大リーガーとして3割30本塁打30盗塁を達成することができそうだ。日米でのトリプルスリーを達成する姿を見せてもらいたい。

 日本でずっとタイトルを獲得し続けるのも見てみたいが、もはや日本人選手として他の選手とは比較にならない存在になりつつある。そうなると、見てみたいのは、大リーグで日本人内野手が長年レギュラーとして活躍する姿である。
 日本で規格外の成績を残せる選手は、大リーグでもかなりの活躍が期待できる。大リーグで通算記録が日米通算となってケチがつかないように、大リーグで長年活躍できる能力を持つ選手は、できる限り早く大リーグへ移籍した方がいい。

 ヤクルトファンの人々にとっては、山田が抜けるとかなりの戦力低下になるため、なかなか賛同は得にくいが、どうしてもケチがついてしまうイチローの日米通算記録騒動を見ると、山田の将来も同じような状況になってしまうのではないかと心配してしまうのである。


 Aイチローの三塁打記録に大リーグのすさまじさを知る

2016年07月03日

 イチローが日米通算115三塁打を放って、日本プロ野球記録となっている福本豊の記録に並んだ。
 イチローの記録は、日米通算なので、比較対象にすべきかどうかは置いておいて、プロで最も三塁打を放った日本人選手も、イチローになった。

 大リーグ記録は、200くらいなのかな、と思って調べてみると、何と1900年代前半に活躍したサム・クロフォードが309三塁打というとてつもない記録を打ち立てていた。

 309三塁打は、もはや不滅の大記録と言っていいだろう。何せクロフォードは、17年間にわたってシーズン2桁三塁打を記録しているし、シーズン20三塁打も5回記録している。
 現代野球では、ほぼ不可能とも言える快記録だ。

 大リーグは、球場が広いせいもあって、昔から三塁打が多かった。イチローの日米通算115三塁打を仮に大リーグの記録に当てはめてみても、100位にすら入らないのである。
 通算200三塁打を超えている選手が8人いて、通算150三塁打を超えている選手が50人いる。
 この記録を抜こうと思ったら、極端に右中間が広い球場を本拠地にするしかなさそうである。日本の球場でやっていては、永久に抜くことはできないだろう。

 クロフォードは、意外にも二塁打は通算458本で大リーグ通算で20位にも入らない記録である。
 おそらく、クロフォードは、右中間やライト線に飛んだ飛球は、基本的に三塁を狙うというスタイルだったのだろう。三塁打を狙って三塁まで走り、アウトになって二塁打扱いになったという記録が相当数含まれているに違いない。

 ちなみに大リーグ記録は、トリス・スピーカーが792二塁打という記録を誇っており、これもまた不滅の記録になりそうである。

 イチローの日米通算二塁打は、558本で、既に立浪和義の日本プロ野球記録487は超えている。
 大リーグ記録として換算しても、28位に該当するので、イチローは、球史に残る二塁打の名手と言うことができる。
 ただ600二塁打を超えている選手が14人もおり、歴代2位は、あのピート・ローズで、746二塁打を放っている。

 二塁打数でも、ピート・ローズやスピーカーを超えてほしいところだが、現状のペースではなかなか超えるのは難しそうである。

 「歴史にはロマンがある」とは言い古された言葉ではあるが、三塁打や二塁打の大リーグ歴代1位記録を見ると、クロフォードやスピーカーがどんな選手だったのか、思いをはせてみたくなる。
 歴史を発掘したくなるイチローの現在の活躍もまた歴史に残る記録である。


 B福留孝介は最もプロ向きな選手

2016年07月09日

「誠意とは言葉じゃなく金額」
 インターネットでは、この言葉が福留孝介の代名詞のように取り上げられている。
 中日時代の契約更改での発言で、よく批判的な論調で語られることが多いのだが、私は、福留がプロとして成功した最大の要因が詰まった言葉であると思う。

 福留といえば、中日時代は走攻守が揃った名選手として黄金時代を築いたのだが、決して器用な選手ではない。遊撃手としての守備は失格の烙印を押されて外野手に転向したようなものだし、若い頃は三振も多かった。大リーグでも、環境に適応できたとは言い難いし、センターの守備でも苦労した。阪神入団後も、再び日本野球に適応するまでかなり時間がかかっている。

 それでも、プロに入ってから今まで辞めたいと思ったことがない、という。必要とされる場所で、必要な働きをする。そんな合理的な思考がどれだけ非難されても我が道を行く。福留の「誠意とは言葉じゃなく金額」という言葉は、福留の一貫した合理主義を象徴している。

 福留最大の特徴は、前の結果をとにかく引きずらないことである。他の選手なら、凡打が続くと悩みがそのまま表面上に表れるものだが、福留は、それがない
。いつものように飄々とプレーし続けるのである。

 福留孝介というと、どうしても、中日時代の2002年、2006年のイメージがなかなか抜けない。
 いずれも、首位打者のタイトルを獲得した年なので、卓越した成績を残したことは間違いないのだが、2年ともインパクトが強烈だった。

 2002年は、松井秀喜が日本で最後にプレーした年で、すさまじい打棒を見せて、もはや日本では突出した存在になりつつあった。
 シーズン成績は、打率.334、50本塁打、107打点。本塁打王と打点王の二冠に輝き、シーズンMVPも獲得した。
 そんな松井の三冠王を阻止したのが打率.343を残して首位打者になった福留だった。

 私は、この年、松井秀喜が三冠王を獲得するものだとばかり思っていたので、福留がシーズン最終盤に打ちまくって首位打者になったのにはかなり驚かされた。

 2006年は、1年間を通じて常に打ち続けていた印象があり、特に後半戦開始早々に4試合連続お立ち台という脅威的な活躍でリーグ優勝に貢献し、打率.351、31本塁打、104打点でシーズンMVPを獲得した。
 WBCの準決勝韓国戦での代打決勝2ラン本塁打は、福留の勝負強さが最大限に発揮された球史に残る本塁打でもあった。

 福留は、5球団を渡り歩いて日米通算2000本安打を達成して、おそらくは今後日本通算2000本安打にも近づいていくだろう。
 日本人離れした感覚を持つ福留だけに、今後も、合理的な選択で批判にさらされることになるかもしれないが、福留こそ、プロとして最も成功するタイプの選手であると言っても過言ではない。



 Cプロ野球にも球数制限を導入しよう

2016年07月16日

 7月8日の阪神×広島戦で藤浪晋太郎が161球を投げた。
 1990年代までであれば、それくらいの投球数は、驚くべきほどのことではなかったが、現在ではまず聞かない投球数である。

 最近は、先発投手の投球数は100球が目途となっていて、5回を投げ終えた時点で100球を超えていたら、たとえ0点に抑えていても6回から中継ぎ投手が投げるということが頻繁にある。
 120球を超えていれば、完封勝利がかかっていない限り、交代するのが通例である。

 160球というのは、1.5試合分を投げたことになり、しかも7回表まで投げた時点で2−5と負けていたこともあり、通常なら8回表はリリーフ投手が投げるはずだった。
 しかも、7回裏は2死から藤浪に打席が回ってきており、勝利を追求するなら、ここで代打を出すことが望ましい。
 藤浪が投げさせられたのは、懲罰と言う意味が大きかったようだが、それ以上に無駄を感じたのは、さらに確実な捨て試合にしてしまい、藤浪も8回表に打たれて球数を消費してしまった負の側面である。

 藤浪は、4回から7回までを1安打無失点に抑えており、首脳陣は、8回も抑えてくれることを期待したのだろう。しかし、130球を超えてからの続投はさすがに打たれても仕方がない。

 藤浪にエースの自覚を求めるのであれば、こうして無駄に球数を投げさせるのではなく、どんな展開になったとしても、100球までは投げさせるという懲罰を課すべきだろう。
 この試合に関しては1回余分に投げさせたところで、敗戦投手の投げる回数が1回減ったくらいで、チームに対するメリットは大きくない。むしろ、今後、藤浪が故障でもすれば、この続投による勤続疲労が疑われることになるだろう。

 藤浪は、日本球界を代表する投手であるだけに、大事に使ってもらいたいところである。
 ぜひとも、ルールとして球数制限を儲けることを検討してほしい。

 WBCでは、第1ラウンドが65球、第2ラウンドが80球、準決勝・決勝が95球という制限がある。
 95球というのは、投手の負担を考えると理想的な球数であるかもしれないが、この球数制限をプロ野球に適用することは不可能である。適用してしまうと、5回を投げ切るまでに超えてしまう投手が毎日のように出てきて、あまりにも現実的ではないからだ。

 現実的に考えれば、120球程度を制限とするのが妥当ではないだろうか。オールスターゲーム前3日間の先発投手の球数を見てみると、西勇輝が148球を投げて突出している以外は、全員120球未満で収まっている。
 仮に完封やノーヒットノーランがかかっていたりする場合、120球制限を設けてしまうと、邪魔になってしまうこともあるが、投手の野球人生を考えれば、そういった犠牲は仕方ないと考えるべきであろう。

 また、WBCでは登板日の間隔も細かく規定している。
 50球以上投げた場合、中4日以上空けるという制限については、そのままプロ野球にも適用できる。
 30球以上投げた場合、中1日以上空ける、連投した場合、登板間隔を中1日空けるという制限もある。リリーフ投手の負担も同じように軽減することが望ましいので、検討してもらいたいところである。


 Dそれでも龍谷高校は出場してほしかった

2016年07月24日

 豊浦彰太郎という野球ライターが『「野球部員の喫煙がぼや」で強豪校が準決勝を辞退、もう前時代的な「連帯責任」は止めにすべきだ』という記事を掲載し、Yahoo!ニュースで話題になっている。

 私も、同じ意見であり、過去には似たような文章を何度も書いているのだが、Yahoo!で行っている意識調査で「連帯責任は妥当」が70%を占めていることには驚かされた。
 「連帯責任は止めるべき」が25%、残りは「わからない/どちらとも言えない」である。

 私の意見は、4人に1人の少数意見だった、というのは本当に衝撃であった。 ごく一部の部員の不祥事によって、野球部全体が責任をとらなければならない連座制を7割もの人々が支持するというのは、かなり日本独自色が強いのではないかと感じられるのだ。
 できれば、アメリカやヨーロッパでも同じ意識調査をしてもらいたいものである。

 それにしても、Yahoo!の意識調査によるコメント欄を見ていると、様々な意見が出ていて興味深い。
 まとめてみると、次のようになる。

<連帯責任妥当派>
 ・周りも見て見ぬふりをしていただろうから同罪。
 ・団体競技なのだから、団体で責任をとるのが当然。
 ・野球部員が部室で起こした不祥事だから野球部の責任。
 ・不祥事を起こせば連帯責任となる慣習は自明だから。
 ・喫煙だけでなく大事になりかねないボヤ騒ぎが起きたから団体責任。
 ・団体教育の一環であり、一部の不祥事でも団体の責任。

<連帯責任止めるべき派>
 ・不祥事を起こした部員を外すのみでいい。他の部員は無罪。
 ・喫煙していない大部分の部員の3年間を無にする連帯責任は行き過ぎ。
 ・所属選手が不祥事を起こした巨人が公式戦を出場辞退していないから。
 ・軍隊の教育が残る悪しき遺産だから。
 ・拡大解釈すれば高校野球自体が開催できなくなるから。
 ・不祥事を起こした部員の非行を他の部員が止めるのは極めて困難だから。

 同じ野球界で所属選手が不祥事を起こした巨人が比較対象に上がっているのは面白いが、議論を深めていくとプロ野球選手は個人事業主としての契約関係だから、といった話になっていき、比較対象として妥当なのかどうかまで議論しなければならなくなりそうである。

 中には、校内での不祥事だから連帯責任で、仮に校外での不祥事であれば個人責任といった意見もあったが、日本では喫煙であれ、ボヤ騒ぎであれ、強盗や殺人であれ、場所によって罪の重さは変わることがなく、個人責任なので、そういった場合分けも難しい。
 こういうことがあると、ついついASKAの不祥事によってCHAGE&ASKAの作品販売中止という多大な連帯責任を負うことになってしまったCHAGEの悲劇を思い浮かべてしまう。みのもんたも、不祥事を起こした息子が成人であったため、連帯責任の不当さを訴えて批判されてしまったが、私には彼の気持ちもよく分かる。日本は、なにかにつけて、連帯責任をとらせたがる文化なのだ。

 周囲の部員が喫煙を見て見ぬふりをしていたから同罪という意見が多いのだが、実際、当事者からすれば、注意しても吸う者は、注意した者がいないところで吸うだろうし、注意したら逆に暴力を受けたりするリスクも高い。そんな暴力事件が明るみになれば、これまた連帯責任を取らされるわけだからたちが悪いのだ。

 私としては、日本学生野球憲章に対外試合禁止処分という連帯責任を盛り込んであることが諸悪の根源と考えている。
 一般社会には存在しえない連帯責任が学生野球の中に存在しているという矛盾が毎年のように悲劇を生み出している。
 このままでは、また来年も、再来年も同じようなことが起こり続けるはずである。そうならないためにも、日本学生野球憲章を早急に改正してもらいたい。


 E筒香にハイレベルな三冠王争いを期待

2016年07月30日

 本塁打を放つのは難しい。
 筒香嘉智が2016年7月に達成した3試合連続2本塁打以上や1か月で複数本塁打6回というのは、日本記録なのだという。

 子供の頃、野球をして遊ぶときに、バントやエンドランのサインを作ってプロの真似をしていた。ある日、チームメイトの1人がふざけて、本塁打のサインを作ろうと言いだした。
 実際に作って試合で試してみたのだが、1回も成功しなかった。本塁打のサインを出すと、打者が力んで遠くに飛ばそうと大振りしたり、強引な引っ張りをしてしまい、いい結果が出ないのだ。

 筒香は、7月29日時点で既に月間15本塁打を放っているのだが、6月は4本塁打、5月も4本塁打である。4月から今のペースで打ち続けていれば、既に60本塁打を超えている計算になるから、筒香の現在は、いわゆるゾーンに入った状態と言っていいのかもしれない。

 バレンティンが2013年に叩きだしたシーズン60本塁打も、8月に月間18本塁打という日本記録を樹立したことによって、達成できたといっても過言ではない。
 常にゾーンに入り続けた状態を1シーズン続ければ、15本塁打×6か月で90本塁打を放てる計算になるが、実際にそれを達成できる選手が現れることはおそらくないだろう。

 プロの世界で最も本塁打を放った王貞治ですら、月間本塁打の日本記録は持っておらず、連続本塁打も4打席が最高である。連続試合本塁打は、7試合の日本記録を樹立しているが、それでも7試合しか連続では打てなかった、という困難さが目立ってしまう。

 筒香も、現在のペースで打ち続ければ、シーズン本塁打日本記録を樹立することはできるだろうが、現在の調子がシーズン終了まで続くとは考えにくい。

 それより、注目したいのは、山田哲人との三冠王争いである。打撃3部門のタイトルは、筒香と山田の2人で争うことになりそうで、いずれかが8月か、9月に爆発的な打撃で抜けだした場合、三冠王を獲得できる可能性がある。
 突出した打者2人の三冠王争いは、かつての落合博満とブーマーの三冠王争いを彷彿させるものがあるので、2人には、三冠すべてを獲得する意気込みでシーズン終盤に入っていってもらいたいところである。





(2016年8月作成)

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