2016年6月のブログ

犬山 翔太
 
 @田島慎二の決断が野球人生を一転させる

 2016年06月04日

 今年の田島慎二は、想定以上に好調である。
 サイドスローに転向した2015年から復調の兆しが出ていたが、2016年は制球力が格段に向上し、球の切れも良くなっている。

 2012年に田島が新人ながら30ホールド、防御率1.15という新人離れした成績を残したときは、浅尾に続いて岩瀬の後継者が現れたと喜んだものだ。浅尾と田島でセットアッパー、抑えを担っていけば、向こう10年間はリリーフに苦労することはないだろうと。

 しかし、2013年には一転して不調に陥り、コントロールが乱れて高めに浮いたのを痛打されるという場面を何度も見せられた。
 2014年終了時点では、田島のプロとしてのキャリアがもう終わりに近づいているのではないかとさえ感じたものだ。

 このままでは通用しないと感じる状況は、学生生活でも社会人生活でも多々経験する。
 そんなとき、何も変えずに手をこまねいていると、そのまま尻すぼみになって行ってしまう。大事なのは、苦境を打開する方法をいかにして見つけるかである。
 ときには、今までのやり方をすべて捨ててまで、変えないといけない場合もある。実は、それが最も難しいのだ。

 田島の場合、オーバースローからサイドスローに転向する道を選んだ。1年目での成功体験があるため、変えることにためらいはあっただろう。しかし、厳しいプロ野球の世界で生き残るため、田島は、プロ4年目で大きな決断を下した。

 オーバースローからサイドスローに転向して成功した投手と言えば、まず斎藤雅樹が脳裏に浮かぶ。オーバースローで投げるような体の使い方でサイドスローから繰り出す球威のある直球と低めに鋭く決まるスライダーのコンビネーションは、素晴らしかった。
 斉藤の全盛期は、2点取れば勝ったも同然というほどの安定感があった。転向という決断がプロ野球史に残る大投手を生み出した。

 中日でも、オーバースローからサイドスローに転向して成功した投手として小林正人がいる。
 小林は、プロ入り時、オーバースローの投手だった。しかし、活躍できないまま、2006年からサイドスローに転向して活路を見い出し、日本を代表するワンポイントリリーフ投手となった。

 田島のサイドスロー転向は、開幕からの連続試合無失点記録を更新するという日本記録を生んだ。
 もはや、田島のサイドスロー転向は、成功と断言してもいいだろう。あとは、日本を代表するクローザーになれるかどうかという、もう1つ上の段階が待ち受けるのみである。


 Aビデオ判定のさらなる拡大を

 2016年06月11日

 2016年から導入されたコリジョンルールが頻繁に話題になっているが、私が注目しているのは、それと同時に導入された本塁クロスプレーのビデオ判定だ。

 関連する2つのルールがあると、それらをあいまいにまとめて評価しがちだが、まずは個別のルールをそれぞれしっかりと評価すべきである。

 コリジョンルールでアウトかセーフかの判定は、ほとんどビデオで行うことになるため、混同されてしまうことが多いのだが、コリジョンルール適用外が確実なときも、クロスプレーのビデオ判定は使用することができる。

 これまでは、本塁クロスプレーの判定に対してランナーやキャッチャーが異議を唱えることも多く、選手が審判に詰め寄って退場になることもしばしばあった。審判の立ち位置と選手の立ち位置の関係で、審判にクロスプレーのタッチ有無が見えない場合があるからだ。
 しかし、ビデオ判定によって、重要な局面での本塁クロスプレーが確実に判定できるようになり、誤審で後味が悪い気分になることが大きく減少するはずである。

 しかし、私は、以前導入された本塁打のビデオ判定と、本塁クロスプレーのビデオ判定だけでは、まだまだ足りないと考えている。

 私が今、思い出すだけでも、ビデオ判定が必要なものは多々ある。

 ・一塁線や三塁線に落ちる微妙な打球に対する判定
 ・野手がワンバウンドで捕球したかノーバウンドで捕球したかの判定
 ・一塁、二塁、三塁ベース上でのアウト・セーフの判定
 ・死球かどうかの判定
 ・三振かバットが当たっているかどうかの判定
 ・外野でフェンスに当たってから捕球したか直接捕球したかの判定

 これらは、試合の中で度々問題となって、審判に対して監督が抗議したり、選手が抗議して退場になったりするのを見かけることが多く、物議を醸しがちである。

 ファンは、すべての判定に対して完璧を望むものであり、これらの判定問題を解決しない限り、今後も問題は起こり続けることになる。

 上記に挙げたような判定すべてをビデオ判定の対象にしたとしても、さほどビデオ増設はしなくて済むであろうし、1試合の中で5回を超えるようなビデオ判定はめったに起きないはずである。
 ビデオ判定による悲劇を少しでも少なくできるよう、徐々にでもいいので、改善をしてもらいたい。


 Bイチローの日米通算記録はピート・ローズと比較できるのか

 2016年06月18日

 イチローの記録は、偉大すぎるがゆえに日米で議論になる。

 2016年6月15日、9回の打席でイチローがライト線を破る二塁打を放って、ついに日米通算4257安打となった。
 これにより、ピート・ローズの米通算4256安打を抜いて、日米プロ野球で最も安打を放った選手となった。

 果たしてイチローは、ピート・ローズ以上なのか。日米の国民、マスコミの間で持ちきりの話題がこれだ。

 しかし、異なる環境の実績比較は、いつまでたっても答えにたどり着かない。スティーブ・ジョブズと松下幸之助のどちらが偉大か、を延々と議論しているようなものだ。
 ただ、議論することは、それぞれの実績が持つ多大な価値を多くの人々に認識させる効果はあると思う。

 NPBと大リーグが同じリーグであれば、無条件にイチローが世界一の安打数と誇れるのだが、現状を客観的に見れば、大リーグの方が安打を積み重ねることが困難で過酷と言わざるを得ない。

 私がこれまで大リーグを見てきて、最も衝撃を受けたのは、イチローが2001年に大リーグに渡って1年目で首位打者と最多安打、盗塁王とシーズンMVP、新人王に輝いたことではない。イチローなら、それくらいはやってのけるだろうと思っていたので全く驚かなかった。
 むしろ、その翌年に打率.321と成績を落とし、首位打者を獲得できなかったことが大きな驚きだった。
 イチローでも首位打者を獲得できないほどのリーグなのだ、と。大リーグのレベルの高さと過酷さを思い知らされた。

 NPBで数多くの安打を積み重ねた打者も、大リーグではNPBと同等のペースで安打を積み重ねられるわけではない。ほぼそれができた選手は、イチローと松井秀喜くらいである。

 かといって、NPBで4257本安打を達成するには、年間平均170安打を25年継続させる必要がある。つまり、事実上不可能な数字である。
 そう考えると、130試合制のNPBでシーズン210安打を放ったりして9年間積み重ねた安打数も高い価値がある。
 ピート・ローズが日本でプレーしたとして130試合で210安打放てるかと聞かれれば首を縦に振ることはできないし、7年連続で首位打者を獲得できるかどうかも分からない。

 そして、NPBと大リーグは、公式戦で全く交流がないため、寸分も接点がないのである。
 これらを総合すると、それぞれで積み重ねた安打数を比較するのは無理である。

 今後、日米通算で4257安打を超える選手は、おそらく当分の間、出てこない。それどころか、唯一無二の記録になるかもしれない。 
 当のイチローは、本気で50歳までプレーする気でいるので、大リーグだけで4257安打を達成する可能性だってある。前人未到の記録を残し続けるイチローだけに、ありえない話さと笑うことすらできない。


 C荒木雅博に見るスランプの難儀さ

 2016年06月25日

 どんな優れた打者でも、スランプに陥ってしまうことがある。
 2015年のイチローは、シーズン中盤から終盤にかけて深刻なスランプに陥り、打率.229という信じがたい低成績に終わった。

 2004年には打率.372、262安打を記録したイチローでも、1割4分以上も落とす不振に陥ってしまうのだから、打撃は奥が深い。
 イチローは、先日、前人未到のプロ通算4257安打を達成した打撃の達人である。日本でシーズン最多安打記録を樹立した後、大リーグでもシーズン最多安打を樹立した。
 つまり、日米のプロ野球史上でイチロー以上に安打を放つのが上手い打者は存在しない。技術的にはもはや最高峰であり、スランプに陥ることなどありえないと思っていた。
 そんなイチローが2015年7月に34打席連続無安打というスランプに陥るのだから、一体どうなっているのかと私は混乱した。年齢による疲労回復の衰えもあるだろうが、なかなかスランプを脱出できない苦闘は、悪夢のようだった。

 私の場合は、仕事で好調と呼べる状況などほとんどないのだが、ミスを犯して、それをカバーしようと力を注いだ結果、疲労が蓄積して別のところでミスを重ねてしまうということがある。頭では分かっていて努力しても、状況が好転しないことは起こりえるのである。

 幸い2016年に入ってからのイチローは、かつての打撃を取り戻し、休養を挟みながらの起用で打率3割以上を記録して、見事なスランプ脱出を遂げようとしている。

 そんなスランプについて、文芸評論家の小林秀雄が西鉄の大打者豊田泰光と話をして書いた『スランプ』という文章がある。
 その中で豊田泰光は、スランプの脱出法を以下のように答えている。


“どうも困ったものだと豊田選手は述懐する。周りからいろいろと批評されるが、当人には、皆、わかり切った事、言われなくても、知っているし、やってもいる。だが、どういうわけだか当たらない。つまり、どうするんだ、と訊ねたら、よく食って、よく眠って、ただ、待っているんだと答えた。” 『考えるヒント』小林秀雄(1965)

 豊田のスランプ脱出法は、技術的に問題がないことが確認できれば、あとは疲れをとって体調を万全にして待つというわけである。
 そこから小林は、スポーツの魅力に言及する。


“野球は言うまでもなく、高度に肉体に関わる芸である。肉体というものは、自分のものでありながら、どうしてこうも自分の言う事を聞かぬものか、スポーツの魅力は、その苦労から出てくる。”『考えるヒント』小林秀雄(1965)

 絶好調の打者を観るのが野球の最大の魅力であるとするならば、絶不調というスランプに陥った打者を観るのも極めて興味深い。どのような苦労を重ね、スランプから脱出するか。

 私がイチローや小林秀雄に想いを馳せたのには、現在の荒木雅博の不振がある。プロ野球で1900本以上の安打を重ね、好調時には驚異的な固め打ちをする荒木が6月に入って30打席以上無安打を記録している。
 内野の頭の上をライナーで超えていくヒットならいつでも打てるような印象のある荒木でも、こうしてスランプに陥ってしまうのだ。内野に緩い打球を転がせば、荒木の足なら簡単に内野安打になるのではないかと考えるのだが、そうもいかないのが打撃の難しさである。

 荒木は、昨年、亀澤が台頭して好調だったこともあって、レギュラーの座を明け渡して、スーパーサブの位置づけとなり、スタメンで出場する機会が著しく減少した。
 それでも、今年は、またレギュラーとして起用される機会が増え、一時は3割に届こうかという打率を残していたのだが、急にスランプに陥ってしまったのである。
 疲労や2000本安打へのプレッシャーもあるし、打てなくなればなるほど、中日の勝ちを願うファンからは、批判を受けることになるだろう。荒木も、今は批判に耐えながらひたすら体が思うように動くのを待つしかない。いずれ固め打ちをする荒木が戻ってくることだろう。





(2016年6月作成)

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