2016年5月のコラム

犬山 翔太
 
 @野球賭博防止には抜き打ち監査が必要

 2016年05月01日

 ついに野球賭博問題は、笠原元投手と胴元が逮捕されるという刑事事件に発展した。
 彼らがマスコミに様々な事実を話してさらに騒動が大きくなるのを防ぐためといった憶測の報道が流れているが、実際には胴元側を厳しく取り締まって次への抑止力とするためと考えておきたい。

 それにしても、NPBが4月6日から25日までの期間、自己申告で処分を軽減するとした特例措置は、一体何の意味があったのだろう。

 誰が考えても、自分も野球賭博をやっていました、と正直に申告してくる選手が出てくるとは思えなかった。
 私は、いろんな人に「自己申告してくる選手が出てくると思いますか?」と尋ねていたのだが、すべての人が「自己申告なんてするわけない」という意見であった。

 4月26日のNPBの発表では、結局自己申告者は0人であった。
 見つからなければ何の処分も受けずに済むのに、自己申告してしまえば、最低でも1年間の失格処分が下されることになる。野球賭博関与が名前入りで報道されてから自己申告したって遅くない、という考え方に傾くのは当然である。
 1度、野球賭博関与のイメージがついてしまえば、たとえ1年間の失格処分であっても、その後のプロ野球界復帰は保証されない。

 昨年10月に野球賭博が発覚しているため、仮に他の選手たちが野球賭博をやっていたとしても、その証拠は既に隠滅しているはずである。NPBが手をこまねいているうちに、時間だけが過ぎてしまい、真相の解明が困難になってしまった感はある。

 こうなってしまったからには、過去の真相解明に時間を費やすより、今後の野球賭博を防止する対策を講じるべきである。定期的に講習を行ったり、抜き打ちで監査を行ってもらいたい。球団やNPBの内部だけでは、隠蔽の危険があるので、外部機関への委託を考えてほしいものである。


 Aナニータは外国人選手に対する価値観を変えるか

 2016年05月05日

 日本のプロ野球において、外国人選手の獲得成果は、チームの成績を左右する。
 外国人選手抜きでリーグ優勝を果たすことは不可能に近く、どの球団も外国人枠をフル活用してチームを編成する。

 外国人選手には、日本人選手が持っていないものを求めることが多く、バッターなら大砲、投手なら上背があって剛速球を投げ下ろす投手となる。

 その点から考えると、中日のナニータやエルナンデスは、その枠にとらわれない人選である。
 ビシエドは、他球団同様に四番を任せられる大砲なのだが、ナニータは、安打製造機タイプ、エルナンデスは、三塁・遊撃・二塁を守れるスイッチヒッターである。

 ナニータも、エルナンデスも、日本のプロ野球ではあまり見かけないタイプの外国人選手だ。
 そのナニータが2016年のシーズン序盤から5番打者に定着して高打率を維持しており、今年は、ナニータが目覚ましい成績を残すのではないかと密かに期待している。

 外国人のアベレージヒッターと言えば、昨年まで阪神に在籍していたマートンを思い浮かべるが、マートンは、2013年に19本塁打を放ったことのある中距離ヒッターであり、中日から広島に移籍したルナも2014年には17本塁打を放っており、中距離ヒッターと言えるだろう。

 ナニータの場合は、昨年52試合に出場して本塁打0本という成績で、シーズン中盤には故障離脱してしまったこともあり、ファンからは今年の契約すら疑問視されていたほどである。
 しかし、打率は.308を残しており、アベレージヒッターとしての素質は随所に見せていた。外国人選手は、1年目に活躍しても2年目に研究されて駄目になるパターンと、1年目はさほど活躍しなくても2年目に日本野球に慣れて大きく成績を伸ばすパターンがある。ミートのうまいナニータは、2年目以降に力を発揮する選手なのかもしれない。

 中日では、不動のレギュラーとして活躍していた和田一浩が引退して、レフトのレギュラーが空白状態になったこともあり、ミート力のあるナニータがレギュラー候補1番手として残留となったのだろう。

 ナニータは、来日前の2014年はメキシカンリーグで55試合に出場して打率.344、2012年には3Aで93試合に出場して打率.306、2011年にも3Aで51試合に出場して打率.363を残している。

 ナニータがレギュラーに定着して好不調の波が小さければ、首位打者を獲得できる可能性を秘めている。2016年のシーズンは、5/4までで28試合出場で打率.361、1本塁打の成績を残している。
 シーズンは、まだ始まったばかりであり、ナニータがこのまま安打を量産するかどうかは分からないが、本塁打をあまり期待できない外国人選手が低迷する中日の順位を大きく引き上げてくれたら、日本の外国人選手に対する価値観を変えることにつながりそうである。


 B飛ぶボールか否か

 2016年05月08日

 今年は、またボールがよく飛ぶ。私の周囲では、最近そんな話を聞くことが多くなってきた。
 言われてみると、そんな気がしてくる。特に広島打線が好調で、よく本塁打を打つ印象が強く、34試合で36本塁打を放っている。

 ただ、パリーグではオリックスが開幕から13試合連続本塁打なしの記録を作り、2リーグ制以降のプロ野球記録を更新した。本当に全球団が統一球を使用しているのか疑いたくなるが、そこは疑わずにデータを見てみたい。

 2016年5月7日現在でセリーグは104試合を消化し、本塁打数は163本である。一方、パリーグは、99試合を消化し、134本塁打である。
 飛ぶボールになると、飛距離は上がるのはもちろん打球速度も速くなるので、安打数も必然的に増える。現状ではセリーグが1841安打、パリーグが1735安打である。打率は、どちらも.258となっている。

 比較対象とするのは2015年の記録で、セリーグは429試合で571本塁打、7115安打、打率.249である。パリーグは429試合で647本塁打、7349安打で打率.256である。

 1試合あたりの本塁打数で比較してみると次のようになる。

セリーグ:2015年1.33本、2016年1.57本
パリーグ:2015年1.51本、2016年1.35本

 また、1試合当たりの安打数を比較してみると次のようになる。

セリーグ:2015年16.6本、2016年17.7本
パリーグ:2015年17.1本、2016年17.5本

 本塁打は、昨年と今年でセリーグとパリーグの成績が逆転したみたいになっているが、プロ野球全体で見れば大きな変化はない。広島が例年になく打ちすぎているのと、オリックスが打てなさすぎているのが響いている。

 一方、安打数を見ると、昨年よりセリーグ・パリーグともに成績がよくなっているように見えるが、シーズン序盤は打者が疲れてないだけに、安打がよく出ているためとも考えられる。シーズン全体で見ると、さほど昨年と大差がつかないことが想定できる。

 そういえば、私の周囲には中日・巨人・阪神のファンが多い。どうやらボールがよく飛ぶように感じるのは、セリーグの打線が好調で、特に広島打線が当たりに当たっているのが原因のようだ。


 Cルーティンと言えば五郎丸ではなく長谷川勇也だ

 2016年05月14日

 一流選手のピッチングやバッティングは、観ていて爽快な気分になり、何度でも観たくなる。それが私が野球を好きな最大の理由だ。
 実を言うと、私は、あまりアマチュア野球を見ないし、今は実際に野球をやることもない。

 しかし、プロ野球を観ることにおいては、小学生時代から現在まで情熱が衰えることがない。
 それだけ、いつの時代もプロ野球には私の心をつかむ大投手、大打者がいたわけである。

 打者で言えば、私がプロ野球を観るようになった頃には落合博満、山本浩二、門田博光、ブーマー・ウェルズ、ランディ・バース、清原和博らがいたし、1990年代以降も、イチロー、前田智徳、松井秀喜、中村紀洋、タフィ・ローズ、高橋由伸、和田一浩、小笠原道大といった天才的な打者が台頭してきた。
 現役の打者の中でも、内川聖一、福浦和也、中村剛也、山田哲人、柳田悠岐、秋山翔吾、大島洋平らは、私にとって1打席1打席の結果が気になって観たくなる選手である。
 そして、もう1人、私が動画を探してまでその日の打席を観たい選手こそ、長谷川勇也である。

 元々は、俊足で盗塁が上手く、守備も堅実ではあったのだが、長谷川の魅力は、何と言っても年々進化し続ける打撃フォームだ。
 完璧なバッティングをすることに対するこだわりの強さが随所に見える長谷川の打撃フォームは、もはや芸術である。
 昨年からラグビーの五郎丸のルーティンが流行しているが、私にとってルーティンと言えば長谷川である。長谷川が投球を受ける前に必ずする精巧なロボットのような長いルーティンは、彼が全身でバッティングを表現しようとするのが伝わってくる。そして、打球をとらえるフォルムは、いつも美しく、スイングするときの全身の動きは全く無駄がない。

 以前、テレビ番組で牧田知丈さんがものまねで落合博満のルーティンやフォルムを模写するのを見たことがある。私には牧田さんの気持ちがよく分かる。落合のルーティンやフォルムは、本当にものまねをしたくなるほど魅力的である。
 その落合を師と仰ぐ和田一浩は、大打者の共通点に「フォルムがいい」という点を挙げている。構えてからスイングが終わるまでの全身のフォルムがどこをとっても絵になる美しさを持つ選手は、大抵の場合、安定して好成績を残す。
 和田は、中日では高橋周平のフォルムを絶賛していたが、レフトにも綺麗な本塁打を放つことのできる高橋は、順調に行けば近い将来大打者になりそうな雰囲気を持っている。

 長谷川もまたレフトに美しいフォルムを崩さずに綺麗な本塁打を放てる打者である。ヤフオクドームは、なかなか本塁打が出にくい球場だったが、昨年からテラス席ができて松田宣浩の本塁打が急増したように、昨年は故障の影響で出場機会が少なかった長谷川が今年は、本塁打を量産できる可能性が高い。
 昨年は、早々に故障の影響で1軍登録を外れ、復帰はシーズン終盤になった。少々調子が上がらなくても1軍でずっと使い続けてほしいのに、と残念に思いながらそれでも勝ち続けるソフトバンクの選手層の厚さに驚愕していたが、今年は、最初の控え扱いから実力で5番打者の座を獲得して活躍し始めている。
 長谷川には今後もルーティンやフォルムを進化させながら2度目の首位打者、そして、可能であれば三冠王も狙ってほしいと思う。


 D藤川球児を見て感じる適材適所

 2016年05月21日

 「適材適所」とはよく言ったものである。
 先発をしていた時の藤川球児と、リリーフに回ってからの藤川球児を見ると、やはり藤川は、リリーフに適性があるのだと言わざるを得ない。
 一般社会の職場でも、自らに合わない仕事を、大きなストレスを抱えながらこなしている人をたまに見かけるが、当事者は気づいていなかったり、生活のために無理をしていたりするのだろう。
 自らの判断力や監督者の判断力は、極めて重要である。

 私は、藤川がリリーフ向きだとずっと思っていたので、独立リーグの高知で先発をしていたときも、阪神に再入団して先発として起用されてきたときも、強い違和感を持って眺めていた。

 高知のときはまだ結果を残せてはいたが、阪神に来てからの先発の藤川は、リリーフで見せる姿とは別人であった。長いイニングを投げるために、回転数が多く、浮き上がって見える独特の直球を全力で投げるのをためらっているように見えた。そのため、序盤に失点することもあったし、3回以降は大きく崩れることがあった。

 長年1イニングを全力で投げて成績を残してきただけに、藤川の場合は、浮き上がるような直球の威力で短いイニングを抑えるリリーフ向きなのだ。

 藤川の経緯を見ていると、数年前の浅尾拓也を思い出さずにはいられない。
 150キロを超えて低めに伸びる直球と大きく曲がるパームボール、鋭いフォークボールを持つ浅尾は、2008年にセットアッパーとして活躍し始めていたが、先発を希望した。
 そのため、2009年は、開幕投手を務めるなど、先発としてシーズンに入ったが、結果を残せず、シーズン途中にはリリーフに再転向して結果を残していく。
 2010年と2011年の驚異的な活躍は、言うまでもないが、浅尾は、誰しもリリーフ向きと認めざるを得ない結果が残っている。

 その一方で、朝倉健太は、先発でしか結果を残せなかった投手である。先発で調子を落としたとき、中継ぎに回って調整するというよくある方法を朝倉もとったことがあるが、中継ぎでは全く結果を残せなかった。
 そのため、先発で通用しないとなれば現役引退をするしかなく、実際にそうなってしまった。

 先発とリリーフの両方で活躍した投手と言えば、江夏豊と大野豊が挙げられるが、江夏の場合は、先発として成績が落ちてきたためリリーフに転向した。大野の場合は、チーム事情によって先発とリリーフの転向を繰り返した。しかし、いずれも、両方で成功した稀有な例である。2人とも精密なコントロールと卓越した投球術を持ち合わせていたことが、安定した成績を継続できた要因と考えられる。

 藤川の場合は、直球のキレで勝負してきた投手であり、短いイニングを全力で投げることが結果を残す最善の手段となるはずである。
 私は、岩瀬仁紀の通算セーブ数を脅かすのは藤川だと思っていたが、大リーグ挑戦とトミージョン手術によってその可能性は限りなく低くなった。
 しかし、今でも守護神としてタイトルを獲得できるほどの実力は持っているように見えるので、今後も通算セーブ数を増やし、少しでも岩瀬に近づいてもらいたい。


 Eイチローをどう起用するか

 2016年05月28日

 イチローをどう起用するか。
 大リーグの話題のうち、巷で最も議論されているのがこれだろう。
 これだけ状態がよければ、常にレギュラーとして使うべきだという声もあれば、レギュラーでなくても出場機会をもっと増やすべきだという声もあれば、代打中心でレギュラーを休ませるときだけ先発出場で良いという声もある。

 一般社会にも優れた実績・知識・技術を持ち、現場で目覚ましい手腕を発揮するベテランだが、年齢や持病によって無理できないという社員はいる。こうした社員をいかに有効に活用するかは、企業にとっても、ベテラン社員にとっても重要である。巧みに活用すれば企業の業績は伸びるであろうし、間違った起用をすれば業績が落ち、社員も潰してしまいかねない。

 42歳ながら出場すれば若々しいプレーでファンを魅了する今年のイチローの好調ぶりがイチローの起用方法議論を白熱させている。
 確かにイチローは、突然2、3試合に限定して出場すれば、大リーグのどの野手よりもヒットを打つのが巧い。
 それは、3試合で13打数10安打という快記録が証明した。

 しかし、全試合に出場して3割以上を残せるか。それは、ここ5年間3割を超えていないシーズン成績を見ても分かるように、首を縦に振ることはできない。

 どんな名選手でも、30歳を過ぎれば、徐々に衰えを見せ始める。もちろん個人差はあるが、35歳を超えた頃から引退する選手が増え、40歳を超えた頃にはほとんどの選手が引退する。そして、50歳までにはすべての選手が引退する。
 山本昌が50歳まで現役を続ける快挙を成し遂げたが、現実的には山本昌のキャリアは、16試合に登板して5勝を挙げた48歳の2013年が戦力になった最後の年である。

 イチローは、42歳ながら日頃の摂生によって、他の42歳とは比較にならないほど、高い身体能力を保っている。
 しかし、それでも年齢による衰えは、どうしようもない。疲労の抜け方はどんどん遅くなっていくし、反射神経や動体視力も衰えていく。

 第四の外野手として、代打中心で時おりレギュラー選手の代役として先発出場するイチローを見ていると、私は、落合監督時代の井上一樹を思い出す。
 井上は、28歳のシーズンとなる1999年にレギュラーとして中日のリーグ優勝に貢献した外野手で、明るい性格と勝負強い打撃で人気があった。
 27歳から31歳までの全盛期5年間は、1875打席に立って打率.272、39本塁打を記録した。32歳のシーズンは打率.253、26安打、2本塁打と成績を落とすが、33歳のシーズンに落合博満監督が就任してから状況が好転する。

 落合監督は、好調時にレギュラーとして起用し、そうでないときは代打中心で起用するという采配によって、井上は、成績を上げ、打率.276、11本塁打を記録してリーグ優勝に貢献する。35歳になる翌年にも同様の起用方法で打率.302、10本塁打を記録した井上は、36歳になるシーズンに自己最高の打率.311、11本塁打を記録してまたしてもリーグ優勝に貢献する。
 井上は、33歳から37歳まで晩年5年間に1224打席に立って打率.295、36本塁打を記録したのである。

 井上は、38歳になるシーズンに不振に陥って現役を引退するが、レギュラーとして活躍した全盛期5年間よりも、スーパーサブとして活躍した晩年5年間の方が年平均100打席以上を減らしながら成績が良いという信じがたい結果が残ったのである。

 2016年のイチローも、どれくらいの成績が残せるかは、ドン・マッティングリー監督の起用方法にかかっていると言っても過言ではない。
 イチローの卓越した技術を重視して常にレギュラーで起用すればシーズン打率3割を残すことは困難だろうが、イチローの疲労や好不調を見極めて代打中心で好調時に時おり先発という起用方法を一貫すれば、かなりの好成績が期待できるのである。






(2016年6月作成)

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