2016年3月のコラム

犬山 翔太
 
 @侍ジャパンの常設化は有効なのか

2016年03月06日

 2012年に侍ジャパンが常設化されてから、毎年プロ野球の公式戦以外の時期に国際試合がある。
 ファンとしては、日本を代表する選手のプレーがシーズン以外にも見られるので歓迎すべきことなのだが、選手の調整を考えると、かなり過酷だ。
 そのため、強化試合の代表メンバーが揃わないのが実情である。故障を抱えているため、本大会なら無理して出場できても、強化試合なら辞退するという選手もいるし、そもそも出場できる状態になく招集できないという選手もいる。

 2016年3月に開催となった台湾との強化試合でも、メンバーを見ると大谷翔平、藤浪晋太郎、則本昂大、松井裕樹、柳田悠岐がいない。もちろん、現役大リーガーはいない。
 現役大リーガーは、2017年の第4回WBCでも出場辞退が濃厚ではあるが、大谷や藤浪は、先発投手として起用される可能性が高く、柳田は、クリーンアップを担う可能性が高い。松井も、今年の活躍次第では守護神起用があるだろう。

 オープン戦には出場できても、強化試合には出場できないというのは、なかなか理由がつけにくいところだが、日本代表チームに対する考え方がサッカーと野球では大きな格差がある。
 サッカーW杯は、日本人選手にとって憧れだが、WBCやプレミア12は、まだそういった存在になっていない。

 そのため、野球の日本代表には、出場して得られるメリットよりも、敗退や故障のリスクといったデメリットの方が大きすぎることが代表チームのベストメンバー化を困難にしている。
 たとえ強化試合であっても、手を抜いたり、敗退したりすれば大きな批判にさらされることになるため、選手が出場に二の足を踏む状況に陥っている。

 2006年の第1回WBCと第2回WBCでは優勝して世界一になったものの、侍ジャパン常設化以降、2013年の第3回WBCではベスト4、2015年のプレミア12では3位、と成績を落とした。
 仮に2017年の第4回WBCで決勝に進めないとなった場合には、侍ジャパンの常設自体に疑問の声が上がってくるだろう。

 私としては、将来に向けて長い目で見れば、侍ジャパンを常設することによってチーム内の連携強化や戦術面の一貫性に一定の効果はあると思う。
 ただ、辞退選手を減らすには、報酬面と故障に対する補償の強化が必要である。また、WBCやプレミア12を権威ある大会にしていくための国際協力も推進していかなければならない。

 現在は、まだ野球の国際大会は、今後サッカーW杯のようになっていけるかどうかの過渡期で、踏ん張りどころでもある。しっかり定着してしまえば、それがスタンダードになるのが世の常だ。現在は、侍ジャパンの常設に賛否が渦巻くが、侍ジャパンの常設が消滅してしまわないよう、2017年の第4回WBCで決勝に進めることを願うばかりである。



 A高木京介にプロ野球選手として更生の道を

2016年03月13日

 昨年、巨人の3選手が無期の失格処分となり、巨人を契約解除となった。野球賭博は、八百長に結び付く可能性が高いことから、重い処分を課せられるが、無期の失格処分はもはや永久追放と同じ意味を持つと言っていいだろう。

 野球賭博に対する処分は、野球協約の第180条で規定している。
「コミッショナーは、該当する者を1年間の失格処分、又は無期の失格処分とする。」
 これを見ると、1年間と無期では大きく異なるように見えるが、最短で1年、最長は永久と読み取ればいいのだろうか。無期は、1年半や2年といった期間が後から設定されるかもしれないが、いつになったら復帰できるか分からないという意味では現役生活は絶望と言っていい。

 4人目の発覚となった高木京介投手の処分が気になるところである。
 1年間の失格処分であれば、2017年から復帰することが可能となり、プロ野球で現役を続けられる可能性もある。
 私が望むのは1年間の失格処分である。無期の失格処分では、高木の現役生活は途絶えてしまう。

 無期の失格処分を行って、プロ野球人生にピリオドを打たせることは簡単である。しかし、それでは、同時にプロ野球界において永久に更生する道を閉ざされてしまう。
 自ら会見を開き、反省の意を表して謝罪した高木には、他の3人とは異なる道を与えてあげてほしい。

 高木は、人気球団の巨人で入団以来、ほとんどが敗戦処理という地味な役回りを演じてきた。
 競った場面でも投げることがあるので、勝ち星は、通算6勝、ホールドも21を記録しているが、敗戦は0である。

 いくら敗戦処理中心と言っても、入団から4年間139試合に登板して敗戦なしというのはプロ野球記録である。
 デビュー戦以来の連続ではなく、プロ野球通算記録であれば、柴田佳主也が235試合連続敗戦なしという記録を持っている。柴田は、4球団を渡り歩いた左のサイドスロー投手で2000年には50試合に登板して3勝無敗、防御率1.82という好成績を残している。
 結局1997年に1敗して以降、引退する2004年まで無敗のまま引退した。柴田は、左のワンポイント投手であったがために、こうした記録を打ち立てることができたという側面もある。
 とはいえ、同点の競った場面でも登板しているわけであり、敗戦投手にならなかったのは、やはりそれだけの実力を持ち合わせていたからだろう。
 同じく左のワンポイントとして中日で活躍した小林正人が2位の188試合連続敗戦なしという記録を持っている。

 高木の場合は、左腕ではあるが、ワンポイントというわけではない。ビハインドの場面で投げることが多いとはいえ、これだけの記録を持っているのは、1軍で必要とされる戦力として4年間働いた結果である。
 2015年は、33試合で防御率2.20と安定した投球を見せ、現在も敗戦なしを継続中の高木は、歴代1位の235試合連続敗戦なしの記録超えも狙えるほどである。

 まだ26歳と若いこともあり、今後セットアッパーや抑えに成長していく期待もあり、プロ野球ファンとしては、高木の今後のピッチングを見てみたい。
 犯した罪は重大であり、処分なしにすることはありえないが、黒い霧事件の記憶がない現役選手にとっては、その重大さを理解せずに軽い気持ちで手を出してしまいがちなのだろう。今回の騒動によって他の選手たちは、行動を慎むにちがいない。抑止力としてだけのために、高木に重すぎる処分を課すことは避けてもらいたい。
 無期の失格処分ではなく、1年間の失格処分によって、高木に更生の道を与えてほしいものである。


 B賭博による連座だけは避けてほしい

2016年03月20日

 この1週間で状況が大きく変わってきた。
 先週は、高木京介の野球賭博関与だけが問題になっていたが、今や、高木だけではなく、「声出し」という他選手たちの賭博や他球団選手たちの賭博までが発覚してきた。
 各球団は、野球協約に違反しない範囲内であることの言い訳に必死だが、それらは、何とか事態を小さく収めたいという魂胆が見え見えであり、氷山の一角だけを公表して、切り抜けたいというのが実情だろう。

 しかし、1つ出てくれば、面白半分に様々な告発が出てくるものであり、もはや収拾がつかない混乱に陥っていると言えなくもない。
 ここに八百長行為が加わってしまうと「黒い霧事件」級の騒ぎになってしまうが、さすがにそこまではやっていないと信じたい。

 巨人では高校野球賭博も話題になってきているが、野球協約に記載がある「賭博行為」がどこまでを指すかが分かりにくい。
 野球協約は、「日本プロフェッショナル野球協約」の略であり、協約内の文面からも、プロ野球の試合に対する賭博行為を指していると考えられる。

 だから、高校野球賭博は、野球協約違反ではない、と言ったところで、刑法第185条に違反するため、犯罪行為である。
 そのため、「声出し」による賭博が客観的に見れば明らかに賭博でありながら、各球団は賭博でないと主張しているのだろう。

 とはいえ、高校野球賭博まで挙げだすと、それこそ普通の会社員でもよくやっているようなものだから、プロ野球選手でもやってない方がおかしいと言った方がいいかもしれない。
 私が少年時代の頃から、大人たちの世界で高校野球賭博がメジャーな遊びとなっていたが、あまりにも公然と行われているので、それが違法であることすら認識していなかった。

 男性は、勝負事が好きなので、スポーツが好きだが、同じようにギャンブルも好きである。
 私が所属する課でも12人の男性のうち5人がパチンコ・スロット・競馬・競艇に休日の大部分を費やすギャンブル好きである。

 「声出し」の賭博も、そんなギャンブル好きな人々が考え出して広まってしまったのだろうが、いかんせん自チームの勝敗が賭けの対象になっているのがまずかった。
 お金をもらうために敗退行為をできてしまう、という側面があるから、八百長を疑われかねない。

 さすがに今回は、既に判明している7球団の全選手を1年間の出場停止にすることはできないから、うやむやにされてしまうのだろう。高木京介も含めて、賭博に関与した選手たちには、厳重な注意と再教育を施してもらいたい。
 今後、もっと衝撃的な事実が発覚するかもしれないが、開幕戦を延期したり、一定期間の試合中止などといった愚行だけは避けるべきである。真剣に野球に取り組む選手も多くいるし、プロ野球の試合を励みに生きているファンも多いのだから、連座は不要である。
 プロ野球選手たちは、今回の教訓を生かして、純粋な気持ちでプロ野球という仕事に打ち込み、プレーで真摯な姿を見せてもらいたい。


 C今年は、外野手・内野手の送球技術が重要になりそうだ

2016年03月27日

 プロ野球が開幕して気になるのは、コリジョンルールで本塁突入が大きく増えそうなところである。
 開幕早々の3月26日にヤクルトが浅い外野フライで鈍足の畠山を本塁に突入させてアウトになり、話題をさらっている。

 捕手が本塁をブロックしていないので、三塁コーチも回しやすいし、少々浅い外野守備位置であっても、本塁でセーフになる可能性が高いだけに、得点が増えるだろう。多少はアウトも増えるということではあるが……。

 コリジョンルールでは捕手の故障防止の方に大きな焦点が当たっているが、実際には、本塁に突入する側の故障も数多くあった。
 本塁突入した際の故障で現役生活の後半が大きく変わってしまった選手も多い。小久保裕紀や清原和博、緒方孝市らは、本塁でのクロスプレーで膝を傷めて、その後の成績に大きな影響を及ぼした。
 現役選手でも銀次や小谷野栄一、西川遥輝らが長期離脱を余儀なくされている。

 そうした故障が減ることで、選手生命がこれまでよりも伸びる可能性が高くなり、喜ばしいことである。
 逆に、荒木雅博のような、捕手のブロックをヘッドスライディングによる絶妙なタッチでかいくぐる技術が見られなくなるのは残念ではあるが、故障の危険を防止するという意味では仕方のないことである。

 今年の野球のポイントは、走者が本塁突入した際の外野手・内野手の送球技術である。
 強肩でしかも正確なコントロールを持つことが非常に重要になってくる。セリーグであれば、平田・長野・福留といった選手の価値が上がるであろうし、パリーグであれば、秋山・糸井・駿太らの価値が上がるだろう。

 本塁突入での得点が増える代わりに、本塁での補殺も増えるはずである。今年、補殺数が最も多かった外野手が最高の外野手と言っても過言ではない。コリジョンルールによって影響が出ると考えられる補殺に今年は、注目したい。





(2016年4月作成)

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