2015年2月のコラム

犬山 翔太
 
2015年02月07日

 @ケンカ投法の是非

 久しぶりに「ケンカ投法」という言葉を聞いた。春季キャンプで斉藤佑樹が内角を厳しく攻める投球を披露したからだ。

 ケンカ投法は、名球会入りしている東尾修の専売特許であり、東尾は、通算165死球を与え、ダントツで歴代1位である。
 シュートを決め球にしていただけに、右打者の内角を狙って、大打者にも臆せずに攻めまくった。次に外角へ投げるための伏線でもあったのだが、あまりにも死球が多かった。
 そのせいで、近鉄のデービスに死球を与えたときには、乱闘でひどく殴られるという事件もあった。また、バットコントロールの優れた落合博満や門田博光には、死球を与えた後の打席で、強烈なピッチャー返しを浴びて悶絶させられるという復讐も受けた。

 そんな東尾のケンカ投法には今でもファンの間で賛否が渦巻いている。
 打者を簡単に打ち取れるような決め球や圧倒的な球威がなかった場合、活路を見い出すには、内角を厳しく攻めて打者の腰を引かせることが有効である。
 しかし、それは裏を返せば、打者の選手生命をも変えてしまう危険をはらんでおり、そう容易く投げられるわけではない。
 東尾は、打者の調子を崩したり、恐怖心を植え付けるために、故意に死球を当てていたこともあったようで、これはあまりほめられたことではない。

 そもそも、打者に当てない自信すらないコントロール不足の投手は、打者の体ぎりぎりのところへ投げてはいけない。若い無名の投手が相手球団の間番打者を怪我させてしまった場合、相手チームのファンはおろか、多くの国民から非難を受けることになりかねない。そうなると、味方チームでも使いづらくなってしまうのだ。

 与死球の歴代上位には、プロ野球史に残る好投手が並んでいることから見ても、死球を与えられるのは、実績を残し、それなりのコントロールを持つ投手ということになる。

 現役での通算記録は、久保康友と西口文也の81個である。実働20年の西口はともかく、久保は、実働10年で81個である。2009年には何と16死球も与えて死球王になっている。
 久保は、クイックがうまく、低めに集める投球をするので、コントロールは、いい方という印象があるのだが、ここまで死球が多いとは不思議である。それだけ、常に攻めの投球をしているということだろう。

 とはいえ、2014年も11死球を与えて与死球王になっており、12勝を挙げてはいるが、あまり喜ばしいことではない。
 このままのペースでいけば、東尾にかなり近い記録を残してしまうことになりかねないため、先発ローテーションを守りながら、いかに死球を減らしていくかが今後の課題である。

 近年でも、前田智徳が腕に受けた死球がきっかけとなって現役を引退したり、中田翔が死球による長期離脱で本塁打王を逃したり、和田一浩が2000本安打目前で死球によって長期離脱したり、と残念な事態が相次いでいる。

 ケンカ投法を実践するには、常に思ったところに投げられる絶妙なコントロールをまず身に着けることが最優先である。それができるのであれば、久保も、斉藤も、ケンカ投法で内角を厳しく攻めるのはいいが、相手チームの看板選手を怪我させてしまわないよう、充分な注意を払ってもらいたいものである。


2015年02月11日

 A野球殿堂エキスパート表彰0人には改善が必要だ

 2015年の野球殿堂は、エキスパート表彰0人という寂しすぎる結果となった。
 そうそうたるメンバーが候補なので、2、3人の選出を期待していたのだが、誰も選ばれないというのは、まさに想定外である。

 殿堂入りがこんなに難関になってしまっているのは、表彰されるには有効投票数の75%以上が必要、という厳しすぎる選出基準のためだ。人気投票の傾向もあるだけに、パリーグで活躍した選手や弱小球団に所属した選手は不利でもある。
 エキスパート表彰の候補者自体も、あらかじめ決められた19人から選ぶことになっており、候補者の決定も、表彰の選出も今一つ釈然としないものが残る。

 エキスパート表彰の候補者だけ見てみても、殿堂入りしていないのが不思議な名選手が揃っている。

 特にこの選手がまだ殿堂入りしていないの?と私が感じるのは以下の選手たちである。

足立光宏
 通算187勝。9度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献。1試合17奪三振。

榎本喜八
 誰もが認める天才打者。通算打率.298、2314安打。高卒で新人王、首位打者2回、最多安打4回、ベストナイン9回。

加藤英司
 プロ野球史上屈指の勝負強さで打点王3回、首位打者2回。2055安打、347本塁打7度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献。

田淵幸一
 天性のホームランアーティスト。通算474本塁打。本塁打王は1回だが、それは王貞治の14年連続本塁打王を阻止したもの。

土橋正幸
 プロ野球史上最高のコントロール投手。通算162勝、56回連続無四球、シーズン最多無四球試合4回、9連続奪三振。

長池徳士
 本塁打王3回、打点王3回、シーズンMVP3回。9度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献。シーズン40本塁打以上4回。

ランディ・バース
 プロ野球史上2位となる三冠王2回。プロ野球史上最高となるシーズン打率.389。プロ野球史上5位のシーズン54本塁打。

平松政次
 カミソリシュートを武器に通算200勝達成。弱小球団の大洋で2年連続最多勝。12年連続2桁勝利。

ブーマー・ウェルズ
 外国人初の三冠王獲得。通算打率.317。首位打者2回、本塁打王1回、打点王3回。

藤田平
 プロ野球史上最もミートが上手かった打者。208打席連続無三振。シーズン併殺打ゼロ。2064安打。ベストナイン7回。

村上雅則
 1960年代に大リーグで2年間プレーし、5勝9セーブした日本人大リーガーの先駆者。日本でも通算103勝30セーブ。

大島康徳
 中日、日本ハムの主力選手として2204安打、382本塁打。通算代打本塁打20本、シーズン代打本塁打7本。

篠塚和典
 芸術的な流し打ちと華麗な守備。首位打者2回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回。6度のリーグ優勝に貢献。

星野仙一
 燃える男として通算146勝、巨人戦35勝。沢村賞1回、セーブ王1回、最高勝率1回。監督として中日、阪神、楽天をリーグ優勝に導き、楽天時代は日本一も達成。

水谷実雄
 広島の初優勝に貢献し、通算3度のリーグ優勝に貢献。セパ両リーグでタイトル獲得。加藤英司との世紀の大型トレード。コーチとして数々の名選手育成。

 こう見てみると、実に多種多彩な名選手が揃っている。ここに挙げた全員が既に殿堂入りしていたとしても不思議ではない。
 先日は、70%以上が妥当ではという意見を書いたが、3分の2以上くらいまで緩和してもいいのでは、とさえ考える。



2015年02月14日

 B春季キャンプのあり方を考える

 仁志敏久が日本プロ野球の春季キャンプのあり方に疑問を投げかけて、話題になっている。
 2月1日に全球団の全選手が一斉にキャンプインして約1カ月間全員で練習をするというスタイルに対してだ。

 日本は、野球のルールや環境について、これまで大リーグのやり方をほとんど踏襲してここまでやってきているが、春季キャンプのやり方については日本流を貫いている。
 集団主義の国と言われるだけに、2月1日からは球団のやり方に全員が従って、調整をしていくことになる。

 一方、大リーグでは2月中盤から徐々に選手が参加していき、ベテラン選手を含めた全選手が揃うのは2月下旬から3月上旬になる。
 練習の仕方についても、日本では早朝から晩まで練習し続けるのが普通である野に対し、大リーグでは毎日3〜4時間の練習で基本的に午前中で終わるのが普通である。
 アメリカは、個人主義の国であるだけに、全員での練習を短時間で切り上げて、あとは選手個人の自主性に任されているのだ。

 日本プロ野球と大リーグのどちらのやり方が望ましいか。
 その答えは、日本のどこかの球団が大リーグのやり方を試してみなければ出ない。

 個々のやり方を自ら考えさせて実践すれば、個性あふれる選手が台頭してくる可能性もある。20代、30代、40代とそれぞれの年代によって、同じ練習をするより、年齢に合った練習法や期間を考慮した方が結果がよくなる可能性もある。
 その一方で、自ら進んで練習をしない選手にとっては、堕落してしまい、成績が下降する可能性もある。

 
 突出した身体能力によって台頭してくる選手が多い大リーグでは、全体練習で各選手の連携や小技を身に着けるより、個性を磨くことが重要だ。
 一方、各選手の連携や小技によって緻密な野球を行う日本プロ野球では、個人としての身体能力に劣る分、チームとしての総合力を高めることが重要となるのだ。

 日本が大リーグ式のキャンプをやるためには、すべてを大リーグ式にするのではなく、個人としての能力が高い選手に対してだけ、大リーグ式を導入するのが適切であろう。
 たとえば、年俸が1億円を超える選手のみ、大リーグ式のキャンプで調整できる権利を与える、といった方法だ。

 日本では企業でもそうなのだが、能力の高い者も低い者も、同じ型の中にはめ込んで、突出した才能や発想が花開かない構造になってしまっている。
 松井やイチローに続く大スターの不在に悩む日本プロ野球としては、キャンプの構成を少し変えることで、道を切り拓いていってほしいものである。


2015年02月21日

 C背番号にメッセージを込める

 背番号は、プロ野球選手の看板である。王貞治の1、長嶋茂雄の3、イチローの51は、プロ野球ファンでない人でも知っているはずだ。1桁の背番号は野手のレギュラークラス、10番台の背番号は投手のレギュラークラスといった暗黙の基準もある。

 それだけに、背番号に大きなメッセージを込めて使用する球団もある。その代表が中日である。
 落合GMは、背番号に意味を持たせて、選手の意識改革を促している。

 たとえば、2015年のシーズンから5人の選手の背番号を変更して、それぞれメッセージを込めた。
 有名なのは、高橋周平をミスタードラゴンズと呼ばれた立浪和義が付けた3に変更し、中日の看板選手としての役割を与えた。
 そして、2012年にローテーション投手として10勝を挙げながら、2014年は0勝に終わった山内壮馬を26から59に変更し、奮起を促した。
 さらには、背番号1を付けていた堂上直倫を63に変更して、背水の陣であることを知らしめた。63は、自由契約になった兄の堂上剛裕が付けていた番号で、今年、結果を残さなければ、もう後がないことを示している。

 昨年は、谷哲也が36から70に変更され、2014年に結果が出なければ退団に追い込まれることになっていたが、自己最多の59試合に出場して何とか2015年の契約を勝ち取った。
 中日では背番号70が崖っぷちの番号として知られており、この背番号で成績を残せなければ、自由契約になる。

 逆に活躍を期待して一流の背番号を与えられることもある。新人の友永翔太は、いきなり背番号1が与えられたし、平田良介も、昨年、落合がかつてつけた背番号6を与えられた。鈴木翔太も、昨年、球界のエースナンバーである18を新人ながら与えられた。

 背番号が選手を育てるということもあるので、日々背負い、いやがうえにも意識せざるを得ない番号は、重要である。そうなると、やはり期待を込めて背番号を付けられた選手に注目していきたい。

 2015年に注目したいのは、背番号18を背負う鈴木翔太、背番号20を背負う野村亮介、背番号1を背負う友永翔太、背番号3を背負う高橋周平、背番号9を背負う石川駿になる。
 このうち、1人でも2人でもレギュラーとして話題に上るほどの活躍を見せてくれれば、チームが活性化し、成績も上昇するはずである。


2015年02月28日

 Dプロ野球にtotoはいらない

 政府がプロ野球にtoto導入を検討しているという。
 ここのところ、政府は、消費税増税延期にはじまり、様々な税金や予算にも影響を及ぼしていき、迷走してしまっている感がある。結局、アベノミクスがうまくいってない、ということになるのだが、国がギャンブル推進によって財源を確保しようという魂胆には反対だ。

 近年、大きな問題になった大相撲の野球賭博によって、多くの力士が処分される事態を目の当たりにしながら、野球賭博を検討する政府の見識は疑ってしまう。だが、実際、野球賭博は非合法ながら、世間では結構行われているという実情があるため、合法化したらそれなりの収益を上げることができる可能性がある。目先の利益がぶらさがっているのだ。

 プロ野球界にとって、野球賭博は負のイメージしかない。何と言っても、黒い霧事件で多くの有能な野球選手が将来を奪われてしまった。プロ野球史上屈指の通算成績を残せるはずだった池永正明の悲劇を繰り返すことは避けなければならない。

 サッカーも八百長が世界的によく取りざたされるが、プロ野球も、もしtotoが導入されれば、八百長が横行し、暴力団の資金源になってりまうリスクを秘めている。
 野球の場合、先発投手の出来が勝敗に直結する場合が多く、先発投手が買収されてしまうと、容易に八百長が成り立ってしまう可能性が高い。有能な投手を守ることを最優先に考えるならば、totoは導入すべきではないのだ。

 私としては、そもそもプロ野球の勝敗にギャンブルを持ち込むのは、八百長しか生まないし、野球界にとっても大きなメリットがないからやめるべきと考えている。競艇や競輪、競馬などは、ギャンブルという側面をなくしてしまえば、客を獲得することはできないかもしれないが、プロ野球は、ギャンブルを導入しなくても、観客を充分に取り込んで成り立っている。

 それでも、プロ野球でtotoをどうしてもやりたいのであれば、どちらが勝っても負けても、球団にも選手にも大きな影響を及ぼさない試合、つまりオールスターゲームのみで実現させることが望ましい。
 プロ野球の真剣な試合が迷走する政治の尻拭いとして利用されてはならない。





(2015年 月作成)

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