2014年11月のコラム

犬山 翔太
 
2014年11月01日

 @サファテの乱調から岩瀬を再評価する

日本シリーズは、やはり何かが起きる。
今年の日本シリーズは、中村晃のサヨナラ3ラン本塁打くらいが見どころだったのかな、と思っていたが、第5戦の最後の最後に物議を醸すシーンが起きた。

阪神の西岡が1死満塁で1塁ゴロを打ち、併殺打かと思われた瞬間、西岡にボールが当たってボールが転々とする間に、2塁ランナーが本塁へ突っ込み、同点と思いきや、守備妨害で試合終了というあっけない終幕となった。
阪神の和田監督は、抗議を行ったものの、覆るはずはなく、日本シリーズ史上最も後味の悪い日本一決定となった。

後味の悪い日本シリーズは、2007年の完全試合直前の山井交代が記憶に新しいが、疑惑のプレーという意味では、1978年、ヤクルト×阪急の日本シリーズ第7戦で上田利治監督が行った大杉勝男のポール際への本塁打に対する1時間19分の抗議だろう。
この試合は、1−0でヤクルトが阪急をリードしており、大杉の本塁打によって2−0となれば、阪急は敗色濃厚となるだけに、阪急側は必死だった。
結局、判定は覆らず、ヤクルトが日本一となったが、このシリーズの後味の悪さは、これまで最大のものだった。

2007年の日本シリーズや1978年の日本シリーズの後味の悪さを超えてしまうほどの後味の悪さが2014年に残ってしまったが、これもまた、後年には伝説となっていくのだろう。

この3つの後味の悪さがすべて1−0という緊迫したスコアで起こっているという点も見逃せない。
当然、大差のついた試合ではこのような後味の悪さは残らなかったであろうし、そもそもそういった状況にもならなかったにちがいない。

しかし、1−0という極めて緊張感の高い状況で、双方の選手や首脳陣が必死になった末に起こったことであるので、それらを改めて批判しようとは思わない。

ただ、私が改めて称賛を送りたいのが2007年に8回まで完全試合をしていた山井に代わってマウンドに上がった岩瀬が9回に打者3人を完璧に抑えて2人の投手による完全試合を達成させた功績の大きさである。

今年の第5戦で9回に登場したサファテは、1−0で日本一がかかる試合というあまりの緊張感のせいか、ほとんどストライクが入らず、打者は振らずに立っていれば、同点、逆転ができそうな状態だった。
1−0で9回を抑えなければという重圧、この試合に負けてしまえば、敵地での2連戦しか残ってないという恐怖感。
2007年の第5戦と全く同じ状況の中、岩瀬と対照的なピッチングをして3四球ながら西岡のプレーに助けられて何とか抑えたサファテのあたふたぶりを見るにつけ、2007年に驚くほどの冷静さで3者凡退に片付けた岩瀬の実力を再評価しなければならない。



2014年11月08日

 A球団への貢献度に応じた選手のサポートを

球史に残るエースとしての活躍を見せた投手は、その後、故障をしてしまっても、球団が回復を期待して何年も待ち続けてくれることがある。
たとえば、ソフトバンク(ダイエー)の斉藤和巳投手は、2008年以降、肩を痛めて公式戦での登板ができなかったが、球団は6年間復活を待ち続け、本人が引退を決断するまで続いた。
今中慎二も、1997年から肩の故障で苦しんだが、球団は5年間復活を待ち続け、本人が引退を決断するまで再生を待望した。

現在で言えば、ヤクルトの館山昌平投手は、2013年から故障で2年間勝利から遠ざかっているが、球団は復帰を待ち続けている。中日の吉見一起も、ここ2年間で1勝ではあるが、来年の復活を見込まれている。

現在は、故障をしてしまっても手術やリハビリでほぼ元の状態に戻ることもあるため、球団もすぐに戦力外にすることはない。

2015年に注目したいのは、川上憲伸がどのようなピッチングをするか、である。一度は、2013年限りで戦力外となったものの、就任したばかりの落合GMによって再契約を行い、復活を期して2年目となる。
2014年から2年契約をしていたという事実が先日発覚したが、それは、川上がかつて中日のエースとして活躍し通算117勝を挙げた大きな貢献があるからだろう。最近は、岩瀬や山本昌ばかりがクローズアップされるが、川上も、中日球団への貢献度は彼らに次ぐ実績を挙げているのだ。

川上の場合、ここのところの状況は、選手生命をあきらめなければいけないような大きな故障というわけではないが、2012年に日本球界復帰後、相次ぐ故障に見舞われ、3勝、1勝、1勝と3年間で5勝しかできていない。

1軍で登板した試合では好投する試合も多く、その状態を1年間維持できれば、2桁勝利も可能なのではないか、とさえ思えるほどである。
それゆえに、川上には、2015年は1年間、故障をしないように節制して1軍で投げ続けてほしいのである。

川上が復活を果たすことができれば、今後、エースとして活躍した投手が不振に陥っても、復活を果たすまで長い目で見て契約を継続する球団は増えるはずである。

近年では、FAでの移籍や大リーグの移籍によって古巣の球団で現役を終えられる選手は数少なくなってきている。だが、日本の伝統的な終身雇用も、ファンにとっては残してほしいところなので、球団への貢献度の高い選手には、現役終盤になっても、手厚くサポートする流れを作り出してほしいものである。




2014年11月23日

 B内野手は大リーグ移籍が大きな賭けとなる

いわゆるストーブリーグに突入し、今年のオフは、日本球界ナンバー1投手とも言える金子の動向や、大リーグではイチローや黒田の動向が注目を集めている。
そして、阪神の攻守の要である鳥谷の大リーグ挑戦は、日本球界を引っ張ってきた内野手として今後どういう選択を行うのか注目である。

昨今はアメリカ並に選手の移籍が活発になっていて、1990年代前半以前の終身雇用が基本だった日本球界が、年々アメリカ化してきた。
それでも、大リーグ挑戦やFA移籍で成功したと言える選手は数少なく、逆に移籍せずに生涯1球団を貫いた選手の方が長い目で見ると、幸せな選手生活を送っていることが多い。
その一方で、新井選手のように広島から阪神へ移籍しながらも、また広島に出戻ってくる選手もいて、時の流れが生み出す栄枯盛衰を感じずにはいられない。

移籍をするかどうかで多くの選手が迷うのは、チームの関係者やチームメイト、ファン、その土地への愛着をとるか、魅力的な金銭や夢をとるか、の選択である。
この見極めが最も重要で、魅力的な金銭と夢につられて、移籍したものの、実績が伴わなかった場合、悲惨な状況に追い込まれることを覚悟しなければならない。
イチロー、松井、青木を除く日本人野手が大リーグで陥ったのは、大リーグが期待する成績に届かなかったことによる苦悩である。

鳥谷選手は、日本で一流と呼べる実績を重ねてきた選手ではあるが、イチロー、松井、青木といった日本人の一流選手の中でも突出した成績を残したかと言えば、そうではない。
打撃の主要タイトルを未だ獲得できていない点で、過去の日本人野手の実績を考慮すると、大リーグで大きな実績を残すことがかなり困難であると言わざるを得ない。
特に大リーグでの遊撃手は、守備での高いレベルを求められる上に、器用な打撃も求められる。これまで日本人の内野手がその高い壁に阻まれてレギュラーになかなか定着できていない。

鳥谷選手が大リーグへ移籍するとすれば、リスクの高い大きな賭けとなる。このまま阪神にいれば、通算3000本安打も視野に入れて、ミスタータイガースと呼べるほどの通算成績を残せるだけに、鳥谷選手には、野球人生を長い目で見た選択を望みたい。




2014年11月24日

 C今後を占う育成選手契約切れを獲得する手法

各球団、選手獲得に奔走しているが、これまでの獲得ニュースの中で最も気になったのは、中日の亀沢恭平選手獲得である。
亀沢は、現在26歳。大学から四国アイランドリーグplusに入団し、遊撃手として活躍した後、2011年10月にソフトバンクから育成ドラフト2位の指名を受け、契約。
その後、ソフトバンクの2軍では活躍を見せるものの、選手を豊富に抱えるソフトバンク1軍の壁は高く、3年間という期限がある育成契約で支配下選手としての契約を勝ち取ることはできず、1軍の試合に出場することはできなかった。

そして、自動的に亀沢が自由契約となったことに、落合GMが目を付け、支配下選手として獲得したのである。
ソフトバンクが望めば、再度育成選手契約を結ぶことができるが、中日は支配下選手としての待遇を用意して、入団となった。こういった形での選手獲得は、昨年、オリックスが巨人育成契約切れの丸毛謙一選手を獲得した例があるそうだが、まだ主流な手法ではなく、まさにサプライズである。

ソフトバンクは、2014年のシーズン、22人の育成選手を抱えていた。言わずと知れた資金力豊富な親会社を持つだけに、人数制限のない育成選手を大量に抱えることができ、3軍構成をとっている。ソフトバンクの選手層の厚さは、こういった下部組織の充実にあるのだ。

そして、ソフトバンクの1軍は、既に野手が豊富にそろっており、もはや入り込む隙間がないほど層が厚い。
さらに、ソフトバンクは、2軍でも圧倒的な戦力を持って戦っている。
そうした状況下にあって、育成選手制度を熟知した落合GMが育成選手契約切れを狙って、獲得できる下地が整ったのである。

ソフトバンクにとっては、他球団に入団させるための選手を3年間育てたことになったが、ソフトバンクは、元々アマチュア選手に門戸を広げという意図もあって育成選手を大量に保有しており、野球界へ大きな貢献をしたことになる。
私としては、有望な選手を選手層が厚いからといって飼い殺しにするような状況は好ましいと思わず、そういった選手は積極的に他球団で活躍できる場を与えるべきと考えている。
だからこそ、今回のソフトバンクの育成選手から中日の支配下選手へ、という新たな流れは今後の選択肢として極めて興味深い。

このところ、社会人野球や独立リーグの運営は、長引く不況の中で困難を極めることが多く、資金力を持つプロ球団が若手選手を育て上げていくという方式は、今後のプロ野球界の発展のために必要不可欠である。
こうした流れが軌道に乗ってくれば、指導者や機会に恵まれずに野球人生を終えていた有望選手たちが覚醒するきっかけを作ることができる。

亀沢は、走塁と守備に定評のある内野手であり、打撃力を磨けば、レギュラーを獲得することも夢ではない。
亀沢には、これまでになかったパターンとして、他球団の育成選手から一流選手への道を歩んでもらいたいものである。




2014年11月29日

 D大島洋平の7400万円は安いのか

中日で大島と平田が契約更改で保留をして調停も視野に入れているとのことで、にわかに騒がしくなってきた。

平田は、成績を見る限り、規定打席に到達したのと勝利打点が多い、というのが主張に使えるが、世間では妥当な年俸との評価が多い。
平田は、プロ入団時、当時の落合監督が「オレを超える」とまで評価した逸材であり、現状のシーズン11本塁打で満足してもらっては困る存在である。年俸の大幅アップを主張して調停をするなら3割30本塁打を達成してからが妥当だろう。

その一方、大島は、セリーグを代表する打者としての評価も高くなり、走塁、守備に関しても入団以来、リーグ屈指の実力を持っている。
入団5年目ではあるが、3年目の2012年に打率.310、32盗塁で盗塁王を獲得し、5年目の2014年には打率.318、186安打、28盗塁を記録した。

年俸は、2012年の活躍で2500万円から7500万円に激増し、2013年には打率.248、19盗塁と激減したこととチームが4位に沈んだこともあって、5625万円にまで下がった。
そして、打率.318を記録した2014年は、7400万円に上がった。

この7400万円が安いのかどうかが焦点なのである。
確かに打率と安打数、盗塁数と記録に残っている数字を単純に考えれば、最低8000万円以上あってもいいのではないかと思える。

しかし、あまり注目されない部分で大島は数字を落としている。

たとえば、守備率は、入団以来最低となる.980で、失策6は2013年の3倍である。
特にレフト藤井との連携の悪さは、見ていてハラハラすることもあって、守備面では例年に比べてマイナス評価となる。

また、得点圏打率は、.222であり、2013年の.244から2分落としている。安打数こそ稼いだものの、打点を生み出す安打が少なかった。200安打と最多安打を目指してはいたが、それも届かず、無冠となった。

さらに、盗塁企画数のうち約3分の1が失敗という状況も、いまだ改善されていない。
チームも前年と同じ借金生活の中で優勝争いに絡むことなく、4位に終わった。

こういったあまり注目されない部分の評価が表れて、7400万円という数字になったのだろう。
各球団の年俸査定は、その査定方法が公開されておらず、親会社の資金力に左右されたり、若手と中堅、ベテランでは元になる基準が異なるほか、最近ではFA権取得者が優遇されるなど、一定ではない。

それだけに、調停を行ったところで、その調停自体がさほど信用に足る年俸を出してくることはないのだが、大島が納得できないなら、球団と相談の上、調停で第三者としての評価を与えてもらうのはいいだろう。

ただ、本来は、球団の評価が世間一般が見るその選手の評価と考え、今後の成績上昇を目指した方がいいことは確かである。
調停を行った選手は、これまで7人いたが、そのいずれの選手も、即座に退団か、数年後に退団という経緯をたどっている。
大島には、年俸の金額をいつまでもひきずらず、走好守にわたって、今年を超える成績を残し、リーグ優勝に貢献して1億円を超える年俸を提示してもらえるよう励んでもらいたい。
大島は、入団時から当時の落合監督が守備も打撃も頭一つ抜けていると高く評価した選手である。だからこそ、球団は、高いレベルを望んでしまうのである。





(2014年11月作成)

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