合宿での落選がない選考方法を
〜2013年WBC日本代表で5人落選の物議〜


犬山 翔太
 
 1.WBCの日本代表選考で5人が落選

 2013年の第3回WBC日本代表選考が物議を醸した。
 2月20日に発表となった日本代表メンバーは、合宿に参加した33人のメンバーから28人が選出され、5人が落選したからである。山井大介投手、浅尾拓也投手、村田修一内野手、大島洋平外野手、聖沢諒外野手の5人である。
 この日本代表選出発表後、一緒にチームメイトとして参加したメンバーから5人が落選するという選出方法に対して、世間の批判が噴出している。
 どこが問題なのかと言えば、次の2点が挙げられる。

 @33人から28人に絞る際の選考基準があいまいなこと。
 A一旦、代表チームに呼んでおいてから最後に落選させるという酷いやり方。

 確かに好不調の波や、統一球への対応、体調面の見極めをするため、代表チームに呼んでから、選手を絞り込む、というやり方は、勝利至上主義の中では優れた戦略ではあると思う。

 しかし、一方で、代表チームの中に入れて衆目にさらされながら、ふるい落とし、選手のプライドを傷つけてしまうやり方は、冷徹でもある。
 また、短期間の練習や試合で当落を決めてしまうのは、危険なやり方でもある。

 WBCは、まだ3度目となる歴史が浅い大会であり、制度としても未熟な面が散見できる。それだけに、今回の代表選考騒動も、WBCが進化する過渡期だからこそ、顕在化した問題とも言える。
 今後の大会のために、どのような改善が必要かは、検討していく必要がある。


 2.これまでの日本代表選考から

 私は、2006年の第1回WBCのとき、5人が落選したという記憶がなかったため、調べてみると、やはり第1回では合宿で5人をふるい落とす方式はなかった。

 第1回WBCでは、当初、大リーガーの松井秀喜を日本代表の四番打者に据える予定だったが、松井が態度を保留していたため、30人中29人の選出となった。その後、松井が正式に辞退を表明したため、福留孝介が入って30人の日本代表がそろった。
 このときは、日本代表選手枠の30人を超えて選出することがなかったため、選出後に落選、という悲劇は起きなかった。

 とはいえ、WBC主催のメジャーリーグ機構が日本代表発表時に予備登録メンバーの24人も公表してしまったため、日本プロ野球機構は、予備登録メンバーの心情に配慮した声明を出す事態に発展する。補欠への配慮を考える日本と考えないアメリカという、日米の文化の違いが顕在化していた。
 当時は、まだBWC自体がどのような大会になっていくか未知数であり、辞退者も多かった。そのため、代表選出に対する世間の反応は薄かった。

 しかし、2009年の第2回WBCでは、日本代表候補33人を選び、そこから合宿で28人に絞り込む方法をとった。
 このとき、合宿で落選が決まったのは、和田毅、岸孝之、細川亨、松中信彦、栗原健太の5人である。
 このうち、岸は、WBCの統一球に馴染めず、コントロールが安定しなかったためである。そして、細川と松中は、故障を配慮されて落選、栗原も、肘の手術開けを配慮されての落選である。
 しかし、5人のうち、物議と醸したのが、和田毅の落選である。和田は、ソフトバンクのエースとして入団から5年連続2桁勝利を挙げ、2008年の北京五輪にも日本代表として出場していた。
 それだけに、WBCでも、日本代表の主力として大きな役割を果たすと見られていたが、意外にも落選となったのである。既に先発投手陣が豊富だったという事情はあるものの、和田の調整は、極めて順調であり、客観的に落選する理由が見当たらなかった。そのため、ソフトバンクファンを中心に世間で物議を醸すことになった。
 それ以外にも、楽天の野村克也監督が松中と細川の落選に異議を唱えたこともあって、この選考方法には、疑問を残した。しかし、WBCで日本代表が二連覇を達成したことで、その選考方法は、いつの間にか忘れられていったのである。

 そして、2013年の日本代表選考も、2009年と同様に、合宿で5人を落選させる方法をとった。2009年の前回大会で出ていた問題を解決しないまま、第1回の選考方法に戻すことを検討せず、第2回と同じ選考方法にしたことで、前回の教訓が生かされず、同じ批判を受けることになった。これほど批判が多い要因を放置したまま、また4年後を迎えると、そのときには今回以上に強い批判を受けることが予想できる。
 合宿で5人を落選させる方法は、今回限りにして、せめで第1回大会のような形に戻すべきである。


 3.落選のない選出方法を模索

 仮に第1回WBCと同じ選考方法にした場合、28人の日本代表選手を選出し、非公表で20人程度の予備登録メンバーを決めておくことになる。
 この方法では、日本代表選手は、WBC開幕に合わせて調整することになるが、予備登録メンバーの場合は、日本のペナントレース開幕戦に合わせて調整することになるだろう。万が一のときに選出される可能性があるとはいえ、その低い確率のためにペナントレースに合わせずに、急ピッチでの調整をしたがために、故障をしてしまったり、開幕時にベストの状態に持っていけなかったり、というリスクも伴う。 

 33人いれば、統一球への対応、体調面を見極めて、よりよい選択をすることができるが、28人を最初に選んでしまうと、そのうちの何人かが統一球に全く対応できなかったり、体調面に不安を抱えていることが分かっても、なかなか代わりの選手に変えることができない。

 そういったリスクを考えてみると、WBCで勝つということを第一に考えた場合、33人から合宿で28人に絞る方法の方がメリットがあるのだが、各チームの主力として活躍する一流選手のプライドに配慮するなら、そのメリットを捨ててしまうべきである。
 サッカー日本代表は、かつてワールドカップ直前に三浦知良を代表から落選させたことが物議を醸し、それ以降、ワールドカップ直前に代表から落選させる方式をやめている。

 私としては、最初から代表は28人にしておいて、補欠として、それぞれのポジション別に1人ずつを非公表で決めておき、選手本人にだけ通達しておく方法がいいと考える。投手については、投手として1人というわけではなく、先発1人、中継ぎ1人、抑え1人である。同様に外野手も、レフト・センター・ライトと個別に1人ずつ決めておく方がいい。
 国際大会になると、普段は、守ってないポジションで守らせて、それがきっかけで敗戦するという最悪の事態が起こることもあるが、それだけは避けなければならない。
 こうした方法をとることによって、33人を選んで合宿で5人をふるい落とす方法に比べて、チーム力が若干落ちてしまうかもしれないが、選手の尊厳を守るうえで仕方ないと判断せざるをえない。
 2013年の合宿では、練習試合の様子を見た首脳陣の判断によって、得点力を最優先する方針で、優れた機動力と守備力を持つ聖澤と大島が落選したが、WBCの結果次第では、この選考がまた問題となる可能性を秘めている。
 だが、WBCの結果にかかわらず、今後、落選のない選出方法に変えることは、いずれ必要になる。だからこそ、過去3回の選考過程を分析し、改善した方がいい。




(2013年3月作成)

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