「WINDY ROAD」を語る
山犬

 1991年4月12日、MLUTIMAXの「WINDY ROAD」は、セカンドアルバム『STILL』のラストを飾ると同時にシングルとしても発売となった。
 アルバムと同時発売で、しかも「SAY YES」発売前とあって、オリコンのシングルチャートでは最高25位にとどまる。だが、その後のCHAGEにとっては欠かせない楽曲となった。
 あと1年遅く発売していればミリオンセラーも夢じゃなかったのに……。僕は、その発売時期を惜しんだものだ。
 だが、この楽曲は、1992年のラジオでの全国人気投票でも1位になったようにMULTIMAXの楽曲では圧倒的な人気を誇った。
 そして、いまだにMULTIMAXの楽曲の中では最高の人気を誇っている。
 理由は明快である。盛り上がるからだ。
 CHAGE&ASKAで言えば、「YAH YAH YAH」にあたるような位置付けである。
 艶のあるCHAGEの透き通った声、メンバー3人のハーモニー、勇気が沸いてくるような明るく力強いメロディー、勢いのある演奏、苦境から未来を見据える前向きな詞。
 曲は7分以上あるのだが、その長さを全く感じさせないだけの中身が詰まっている。つまり、MULTIMAXの魅力のすべてがこの1曲で味わえるのだ。

 おそらくCHAGEは、ライブで歌うことをかなり意識してこの楽曲を作っている。「GO!」という掛け声からの始まりは、もう既にライブでの盛り上がりが最高潮に達した場面をイメージさせ、聴いているだけでライブに行っているような気分になる。つまり、多くの人々に直接伝えたい想いが大きいからこそ、このようなスケールの大きな楽曲が完成したのである。

 伝えたい思いは、メロディーや演奏だけでなく、詞にも刻み込まれている。真剣に人間の愛情を描いているからだ。この楽曲は、当時起きていた湾岸戦争に世界が震撼する中で、反戦の意思と平和への願いを込めて作られたと言われている。澤地隆の詞は、そんな何が起きるか分からない不安な情勢の中で、いくつもの苦しみ、悲しみを感じながら、それを愛情の力で乗り越えていかなければならないという強いメッセージが楽曲に力を与えている。愛情が希薄になったり、愛情自体を失ってしまう人々に対して、この楽曲は、人間同士の対話によって愛を取り戻していかなければならないのだと訴えるのだ。まるでジョン・レノンの「Imagine」と同等の楽曲ではないか。

 この楽曲は、最初CHAGE&ASKAとして歌う予定にしていたと言われている。だが、MULTIMAXのアルバム曲が揃っていなかったこともあって、CHAGEが無理やりMULTIMAXの楽曲として押し込んだそうである。ASKAも、この楽曲をライブでは歌いたかったのじゃないかな、とASKAの無念を思いやってしまうほど、この楽曲はライブ向きである。
 
 僕は、元来、CHAGE&ASKAをライブアーティストだと思っているのだが、MULTIMAXは、それに輪をかけたライブアーティストである。外見とトーク、若さ、華やかさが重視されるメディアの枠の中ではMULTIMAXの魅力は、存分に伝わりきらない。
 なぜなら、MULTIMAXは、聴かせる、迫力を感じてもらう、弾けさせる、そして考えさせる。そんなタイプのアーティストだからである。
 「WINDY ROAD」は、そのことを雄弁に語ってくれる。MULTIMAXのライブではこの楽曲でいつも盛り上がりが最高潮に達する。そして、サビではほとんどの観客が紙飛行機を飛ばすのが恒例である。まるでそれは、平和を願うかのように自由に紙吹雪を見違えるほど会場を飛び回る。
 1999年から2000年にかけて行われた千年夜一夜コンサートでは、MULTIMAXのメンバーが久しぶりに揃って「WINDY ROAD」を披露した。そのときも、サビが来る度、会場全体に紙飛行機が乱れ飛んだ。観客は、その瞬間を待ち望んでいたのである。

 「WINDY ROAD」を聴くたびに、ビートルズが残した名曲の中にある「The long and winding road」が脳裏をかすめる。タイトルがよく似ているからだ。MULTIMAXの「WINDY ROAD」とは全く曲調も意味も異なるのだが、CHAGEは熱狂的なビートルズファンであり、澤地隆も「レノンのミスキャスト」というジョン・レノンをテーマに入れた詞を書いたりしている。また、私がこの楽曲の理念が「Imagine」に通じるものがあると感じるのもそのせいかもしれない。おそらく、CHAGEや澤地の中には、このビートルズの名曲のように、後世にまで残る楽曲をという想いがあったのではないか。
 たとえ、そうでなかったとしても、この「WINDY ROAD」は、いつの時代も聴く者を真剣に魅了し、いつどこにいてもライブという別世界へ連れて行ってくれる稀有な楽曲なのである。

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