「男と女」を語る
   山犬

 CHAGE&ASKAのデビュー後数年間のイメージに、東洋を感じさせるアーティストというのがあった。
 一口に東洋と言っても広いのだが、どこか一つの国に限定するならば、それはおそらく中国ではないだろうか。
 まず中国を感じさせてくれる楽曲の代表として「万里の河」がある。万里の長城や長江さえ思い浮かべてしまうこの楽曲は、大ヒットしたこともあり、CHAGE&ASKAを中国古来の音楽要素を取り入れたミュージシャンのように感じた人々も多いらしい。
 確かに当時のフォークやロックと一線を画すために、彼らは、意識して誰もが手を染めてない音楽というのを目指していたようだ。
 
 「男と女」も、その流れの中で生まれた、中国を感じさせてくれる楽曲である。僕には中国を感じてしまう理由はなぜか、というところが自分でもわからなかったのだが、初めて聴いたとき、確かに僕は直感的に中国を思い浮かべてしまったのである。
 CHAGE&ASKAは、初めてアジアツアーを行うため、1994年に中国を訪れたとき、現地の人から「中国人の八割はこの曲を知ってますよ」と言われたという。
 彼らの「男と女」は、中国でカバーされて大ヒットしており、中国人にはなじみが深いのだ。だが、それをCHAGE&ASKAの楽曲だと知る人は少ない。
 彼らが別の中国人に「これは僕たちの歌なんだよ」と言ったとき、「何を言ってるんだ。この曲は中国に昔からある曲なんだ」と主張されたという笑い話もある。確かに彼らの風貌を見れば、十数年前のデビュー3年目(1981)にこんな名曲を発表していたなどというのは、信じがたいのかもしれない。
 台湾の人気歌手エミール・チョウは、この「男と女」を北京語でカバーし、台湾と中国本土、香港で大ヒットさせた。さらにサリー・イップは、広東語で「男と女」をカバーし、これまた大ヒットを記録している。
 僕は、そういった事実を初めて知ったとき、僕がこの曲を初めて聴いたときの直感との不思議な一致を思わずにはいられなかった。
 どうしてCHAGE&ASKAがアジアで絶大な人気を誇るのかという命題を考えたとき、避けて通れないのがこの「男と女」なのである。
 
 これほどまでに「男と女」が中国で絶大な人気を誇るのはおそらく、CHAGE&ASKAが作り出したメロディーと歌声が中国語が本来持つ発音の響きと合致しているからではないかと思う。
 中国語は、それ自体がメロディーと言えるほど、高低やリズムが豊かである。
 CHAGE&ASKAのオリジナリティー溢れる豊富なメロディーと高音低音を自由自在に歌いこなす圧倒的なボーカルが中国の人々の心をつかんだのではないだろうか。
 出足だけを聞くと演歌なのかフォークなのか、と思ってしまうだろうが、聴いていくうちにロックの要素も含んでいて一体どんなジャンルの楽曲なのか判別できなくなってしまう。それこそが彼らが持つオリジナリティーなのである。

 それにしても、ここまで哀しくも切なく男女の別離を描いた楽曲は他にあるだろうか。二人の男女は、恋に落ちたが、やがて男性が別れを切り出す。
 それは、女性の望んでいたものではなかった。男性に新しい恋人ができてしまったのだろうか。女性は、今までその男性を信じてやってきた全てが崩壊して、今まで二人で過ごした時間を思い返す。そのときの幸福が蘇れば蘇るほど、その男性への未練は膨らむばかりなのだ。でも、もう二度と戻ることはない。
 ASKA独特の起伏豊かな歌声とサビでの二人のハーモニーは、打ちひしがれる女性の感情をあまりにも痛切に表現してくれる。

 この楽曲がヒットしていた頃、彼らがテレビ出演して歌った際に笑顔を見せてしまったことがあり、それを見た女性リポーターが「あんたたち、ほんとにこの歌の意味を分かってるの」と怒ってきたという逸話がある。もちろん、その女性リポーターは、彼ら自身がその楽曲を制作していたことすら理解できていなかっただろうが、「男と女」のメロディーは、CHAGE&ASKAの意識以上に、世間の人々へ「捨てられる女性の哀しみ」という強い感情を植え付けてしまう力を持っていたということでもある。だからこそ、この楽曲は、国境も超え、時代も超えて広がりを見せているにちがいない。

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