「L&R」を語る
犬山 翔太
2009年1月30日、CHAGE&ASKAは、無期限活動休止を発表する。テレビ、ラジオ、新聞、インターネットといったメディアは、こぞってトップニュースとして取り上げた。
CHAGE&ASKAのデビュー30周年にCHAGE&ASKAとして活動せず、ソロ活動に専念する。既に解散したグループではなく、29年間CHAGE&ASKAというグループを本体として活動してきた。彼らが記念とすべきデビュー30周年にグループとして活動しない。それは、世間から見れば、極めて異例の出来事だったのだ。
そのため、様々な憶測を呼んだわけだが、そういった周囲の声に対して、真相を語るのがこの「L&R」と言ってもいい。
とはいえ、この楽曲は、ASKAが現実的に解散を考えていた当時の心境を歌ったものだという。その後、CHAGE&ASKAは、解散せず無期限活動休止へと話が進んで行くわけだが、ASKAは、解散が頭をよぎった時期にできた楽曲をシングル「あなたが泣くことはない」のカップリング曲として収録した。
その楽曲「L&R」は、ASKAにとっては珍しいノンフィクション作品である。LとRの意味は、は、CHAGE&ASKAのステージを目にしたことがある者ならすぐに見当がつくだろう。彼らの立ち位置である。つまり、Lは「Left」、Rは「Right」である。CHAGEは、向かって左側に立ち、ASKAは、右側に立つ。
アマチュア時代、チャゲと飛鳥は、別々でポプコン福岡大会に出場する。そこでグランプリがチャゲと最優秀歌唱賞が飛鳥という結果を残す。そして、チャゲが次の九州大会に進むことになったとき、ヤマハの秋吉ディレクターが賞を獲るために一緒にやることを勧めた言葉がきっかけでチャゲ&飛鳥が誕生することになる。
しかし、彼らは、あくまで自らのスタンスを残したままバンドとなることを望み、2m10cmを隔ててステージに立つ。そして、バンド名は、2人を「&」でつないだ「チャゲ&飛鳥」にしたのである。
「L&R」でASKAは、ミディアムなロックのリズムと演奏に乗せて、チャゲ&飛鳥結成当時のことを思い返す。今となっては、笑い話のような結びつき方がすべての始まりである。
デビューして30年が経ち、50代へ突入したASKAは、期限を決めず思う存分CHAGEとASKAという別々のアーティストとして活動してみたい、と決意する。同じ時期、CHAGEも、ソロ活動に重点を置いていた。
人生の折り返し地点をおそらくは過ぎたであろうという年齢に到達し、ASKAは、これまでとは時間のとらえ方が変わってきたことを感じる。人生の新たな時間を重ねて行くというよりは、人生の残り時間が減って行く感覚が強くなったのだ。今まで思う存分、やろうとしてもやれなかったことをやる時期に来た、というわけなのである。
そこでASKAは、膨大なファンに愛され続けるCHAGE&ASKAというデュオの存在に想いを馳せる。この楽曲に出てくる「月」は、CHAGEの著書『月が言い訳をしてる』の通り、CHAGEの代名詞である。CHAGEは、当時、ASKAを太陽にたとえ、自らとの関係を表現した。
ASKAは、「L&R」でソロ活動に専念するにあたり、CHAGEとの関係、そして、CHAGEとともに作り出す音楽が自らの考えていたよりも重大な意味を持って、身に降り注いでくることを感じる。このまま何もせず、放置することが許されないほどの存在となってしまっていたからである。
とはいえ、既にCHAGEは、ソロアーティストCHAGEとして、自らの道をすさまじい勢いで歩み始めている。それをASKAは、「弓張り月」と表現する。
確かにCHAGEは、身近な愛情や過去への追憶を穏やかに表現した新作楽曲群を発表しながら、様々なアーティストとのコラボ、そして、CHAGEがこれまで影響を受けてきた他のミュージシャンの名曲をカバーする、といった新たな試みを始めている。
その一方でASKAも、日本やアジアの交響楽団との共演でシンフォニックコンサートツアーを開催し、環境問題や自作の楽曲表現にこだわりを見せて新しい音楽を作り出すことに余念がない。
この「L&R」でも、エレキギターやドラムが高ぶる感情を表現するロックでありながら、2番の後には哀愁のある管楽器演奏や優しく現実を享受するピアノ演奏を入れて、ASKA独自の音楽を作り出す。さらに、今までならCHAGEパートであった部分も、ASKA自らが歌って力強いハーモニーを作り上げている。
現状、CAHGEとASKAの活動は、それぞれの音楽の内容、やり方が両極に開いた状態であり、同じステージで表現することが無理な状態である。その状態でチャゲアスとして成り立たせるには、新しいチャゲアスを作り上げるのではなく、後戻りしてチャゲアスをやってしまうことになる。
CHAGE&ASKAは、新しい楽曲、アルバムを発表する際は、常に以前の自らを超える新しいタイプの楽曲を作り上げることによって、大衆音楽界の最先端を切り開いてきた。したがって、CHAGE&ASKAとして表現できる新しい楽曲がなければ、後戻りせずソロ活動に専念するというのは、必然なのだ。
そうであるならば、いつかその距離が2m10cmにまで近づいてくることもあるだろう。太陽と月も近づいたり離れたりしながら、同じ位置に戻ってくるのだから。そして、ASKAが「心に花の咲く方へ」で歌うように、人は「まっすぐ伸びた円を歩く」のだから、遅かれ早かれ並ぶことになるのだ。
最後にASKAは、CHAGE&ASKAとして再びステージに立つことをほのめかす「LOVE&ROLL」という言葉で締めくくる。ラブバラードとロックンロールを融合したかのような造語である。それも、2人の音楽や存在にかけていて、愛情と革新をもたらすチャゲアスというジャンルの音楽とでも訳しておきたい。
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